
中東ショックが露わにした建築業界の調達リスクと価格構造の限界
中東情勢の影響でナフサ由来のシンナーが品薄・高騰。塗装業界の55%がシンナー入手困難と回答し、業界団体が国交省に支援を要望。住宅建築やインフラ工事の遅延が現実味を帯びている。
元記事:
中東情勢が住宅建築にも影、シンナーや塗料が品薄・高騰…業界団体「政府発表と現場の供給網には大きな乖離」
概要
何が起きたか(事実) 中東情勢の緊迫化を背景にナフサ由来のシンナーが品薄・高騰し、塗装業界団体が政府に支援要望書を提出。TOTOはユニットバスの新規受注を停止。
本質(構造) 政府は供給量自体は足りているとするが、流通中流域での出荷半減が現場の不足を引き起こしており、政府発表と現場実態の間に大きな乖離が生じている。
現場への影響(影響) 回答業者の55%がシンナー入手不可、8割以上が工期遅延を懸念。在庫余力のない中小塗装業者を中心に、5月中旬以降の工期延長・倒産リスクも浮上。
今後どうなるか(変化) 7月1日受注分から壁装材・床材・接着剤等が18〜30%値上げとなる見込みで、原材料高騰が続けばさらなる改定も。供給正常化の目途が立たなければ住宅・インフラ工事全体への波及が避けられない。
当NPOの理事がこのニュースを分かりやすく解説

山口剛
山梨県を拠点に壁紙卸「遠藤紙店」とWALLPAPER STOREを率い、壁紙で暮らしを豊かにするNPO理事。
■ 本件により業界は何が変わるのか
「当たり前」だった調達環境が、もう戻らない可能性がある
7月1日受注分から壁装材・床材・接着剤等が18〜30%値上げとなる。これ自体は「価格改定通知」として処理できる範囲だが、問題はその前提にある。
シンナーが「手に入らない」と答えた事業者が55%に上り、TOTOはユニットバスの新規受注を停止した。価格の問題ではなく、物が動かない状態が現場で起きている。在庫を持つ余裕のない中小塗装業者が先に詰まり、職人を抱える真っ当な会社ほど早く影響を受ける構造は、コロナ禍と同じ矛盾をはらんでいる。
■ この動きの本質はどこにあるのか
価格の硬直性と、備蓄義務の放棄が重なった帰結
1993年にナフサの備蓄義務が外され、調達リスクは業界の自己責任に委ねられた。その後、ナフサ起因の値上げは今回で三度・四度目と言われるが、構造は何も変わっていない。「政府発表と現場の供給網には大きな乖離がある」という業界団体の言葉は、制度設計の失敗を端的に示している。
もう一点、今回の値上げが「下代(業者間取引価格)」のみの改定であり、メーカー希望小売価格にあたる「上代」が据え置かれている点も見過ごせない。材料そのものの価値が上がっているにもかかわらず、表示価格が変わらないのであれば、物の価値が正しく市場に伝わらない。安値競争から脱却できないまま、コスト構造だけが悪化する。業界が長年抱えてきた価格決定プロセスの脆弱性が、今回のショックで一気に露呈した形だ。
■ 建築業界は今後どこに向かうのか
価格の流動性と、供給責任の再設計が問われる
原材料価格が動く以上、カタログ単価を固定し続ける流通構造には無理がある。ガソリンスタンドが日々価格を更新するように、建材においても価格決定のプロセスそのものを見直す議論が必要だ。デジタルカタログの導入といった表層的な対応ではなく、価格決定の仕組みを構造から変えることが求められる。
また、今後の課題は単に「値上げをどう説明するか」ではない。なぜ上がったのかを先様に丁寧に説明する責任は当然あるが、それと同時に、施工の技術や品質に見合った適正な価格水準を業界全体で合意形成していくタイミングでもある。コロナ・リーマンショック級の波が静かに来ている可能性がある今、短期の対応と中長期の構造改革を、同時に動かせるかが問われている。

Author:山口剛
プロフィール
## 活動概要
山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。
「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。
## 経歴
1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。
## 個人について
家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。