渡部理事の講演の様子

渡部氏講演レポート|築古物件DIYと投資の高利回り戦略

不動産投資と聞くと、多額の資金や専門知識が必要だと構えてしまいがちです。けれども実際には、小さな工夫やDIYの積み重ねが思いがけない成果へとつながることがあります。築古物件の修繕や空間の再生に取り組む中で、手間を惜しまない姿勢や柔軟な発想が新しい価値を生み出す――そんな逆転の発想が投資の可能性を大きく広げていきます。

イージーウォールテープを手に取る参加者

DIYから始まる不動産投資との出会い

渡部氏とは共にNPO理事として長く活動を共にしてきました。今回は久しぶりに北海道から参加し、会場に立って語る姿に胸が熱くなりました。長年現場の職人や施工会社と関わりを持ちながら管理者の立場から見てきた経験が、彼の言葉に独特の重みを与えていました。
渡部氏はまず、自身が不動産投資に関心を持つに至った経緯を振り返りました。2002年、札幌で初めて物件を購入したときのことです。900万円の中古住宅を取得し、通常なら500万円以上かかる改修費を350万円に抑えました。結果として物件は1,680万円で売却でき、大きな成功体験につながりました。
「最初の一歩を踏み出すときは、不安がなかったわけではありません。ただ、動いてから考えようと思ったのです」と渡部氏は語りました。施工は職人に委ねながらも、管理者として計画とコストをコントロールし、数字で成果を確認する。そこに投資としての可能性を見出したことが強調されました。
続いて彼は、DIYの位置づけについても触れました。初期の頃は予算の都合で自らも一部手を動かす場面があったとしつつ、基本は「施工はプロに任せる」という姿勢を貫いてきたと語ります。その理由は、仕上がりや安全性を担保すること、そして時間の効率性でした。DIYは物件の魅力を高めるための補助的な手段にすぎず、本質的にはプロの知見をどう活かすかが重要である――そうした整理が、参加者にとっても大きな学びとなったはずです。
「私は管理者の視点から、不動産と施工の橋渡しをしてきました。プロに頼む部分と自ら判断する部分、その線引きをどこに置くかで結果は大きく変わります」と渡部氏が述べたとき、会場から深い頷きが見られました。
私自身、NPOで理事を務める中で数多くの修繕や再生の事例を見てきました。その中で、渡部氏の判断は一貫して合理的であり、同時に未来を見据えたものであったと感じます。彼の歩みは、不動産投資が単なる資金運用ではなく、管理と連携の積み重ねで成り立つことを示していました。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「北海道から久しぶりに参加した渡部氏の話は、私にとっても改めて学びが多いものでした。施工を担うのはプロですが、管理者がどう判断し、どこに責任を置くかによって結果が変わる。その姿勢は、私たちがNPOで共有してきた理念そのものだと感じました」

何事も勇気をもって行動を起こす事と力説

築古再生と高利回りの挑戦

渡部氏が特に力を注いできたのは、築古物件の再生でした。北海道という寒冷地特有の条件に加え、築年数の経過した住宅やアパートが多く流通している地域性もあり、いかに低コストで再生し高い収益性を確保するかが大きな課題となっていました。そこで彼は、管理者としての視点から「いかにプロの力を効率的に活かすか」を徹底してきたのです。
具体的な事例として紹介されたのは、築40年を超える木造アパートの改修でした。外観は老朽化が進み、内部も水回りや壁紙が傷んでおり、一般的には解体や大規模リノベーションが提案されるような物件でした。しかし渡部氏は「限られた投資で収益を最大化する」という視点から、フルリノベーションではなく部分的な再生を選択しました。
判断の基準となったのは、入居者のニーズと地域の相場です。例えば、すべての部屋を新築同然に仕上げる必要はなく、清潔感と安全性を確保したうえで、住み心地に直結するポイントに重点を置く。壁紙は劣化が激しい部分のみを貼り替え、床は必要に応じてクッションフロアを施工。水回りは最低限の更新にとどめ、全体の予算を抑えました。
“こうした判断が奏功し、物件は短期間で入居が決まり、想定以上の利回りを実現することができたのです。
渡部氏が強調していたのは「DIYを取り入れるかどうかは、収益性を高めるための一つの選択肢にすぎない」という点でした。築古物件の再生は往々にしてコストと労力が膨らみがちですが、管理者が冷静に線引きをし、プロの手を借りる部分を見極めることが投資成功の鍵となります。自身が手を動かす場面があったとしても、それは補助的な意味合いにとどめ、あくまで全体の計画を統括することが重要であると語られました。”
“さらに彼は、NPO活動を通じて培ったネットワークの価値にも触れました。信頼できる施工者や問屋とのつながりがあることで、築古物件の改修にかかるコストを抑えつつ品質を担保できたこと。その背景には、長年にわたり現場に関わるプロの知恵を尊重し、対等な立場で意見を交わしてきた経験があります。これは単なる投資家と施工者の関係ではなく、共同で価値を創り上げる姿勢にほかなりません。
築古物件はリスクがある一方で、発想を変えれば高利回りにつながる余地が大きい分野です。渡部氏の取り組みは、華やかな成功譚ではなく、管理者としての冷静な判断と、現場のプロとの協働によって積み重ねられた実践でした。その歩みは、参加者にとって「投資とは数字だけでなく人との信頼関係で成り立つ」という示唆を与えるものになったのです。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「渡部さんのお話を聞きながら、改めて感じたのは、築古物件の再生には単なる修繕の知識以上に、管理者としての判断力と協働の姿勢が不可欠だということです。DIYで手を動かす楽しさも大切ですが、最終的に価値を高めるのは、信頼できるプロとの関わり方や長期的な視野だと思います。NPOという場でこうして知見を共有できるのも、全国の仲間と築いてきた信頼があってこそ。学び合いの輪を、次の世代にもつなげたいと考えています。」

築古再生と管理者のまなざし

渡部氏が北海道から久々にNPO活動へ参加した背景には、地域で取り組んできた築古物件の管理経験がある。彼は施工者ではないが、長年にわたり数多くのプロと協働し、現場の課題と向き合ってきた管理者としての視点を持っている。
そのため、会場でも「築古物件をどう再生するか」という問いに対して、実践的かつ俯瞰的な言葉を重ねた。 渡部氏はまず「見えない部分こそが資産価値を決める」と強調した。壁紙や床材など表層を整えることは大切だが、それ以上に配管や下地といった目に見えない部分の健全性が長期の収益性を左右する。DIYで表層を整えることは投資家自身の喜びとなるが、基盤に関わる部分はプロの力を借りるべきであり、この線引きができるかどうかが成功の分岐点になると語った。
また、管理者の立場から特に重要視していたのが「信頼できるネットワーク」の存在である。渡部氏は、自身が北海道で築いてきた工務店や職人との関係を例に挙げ「施工者と管理者は対立する関係ではなく、協働によって初めて成果が出る」と述べた。修繕を依頼する際にも、ただ価格で選ぶのではなく、長期的な視野で付き合えるかを見極めることが大切だという。彼の言葉には、遠隔地から久々に参加した理事としての真摯な思いが滲んでいた。
さらに渡部氏は、築古物件を活かすことの社会的な意義についても触れた。新築需要が減少し、既存住宅の活用が叫ばれる中、築古物件の再生は単なる投資対象にとどまらず、地域資源の活用や環境負荷の低減にもつながる。管理者としての選択は、個人の利益だけでなく地域の未来を左右するのだという視点で語られた。
参加者からの「どの程度DIYに任せ、どこからプロに依頼すべきか」という質問に対しても、渡部氏は「DIYは投資家に自信と愛着を与える一方で、リスクを抱える部分を見極めないと本末転倒になる」と応じた。
その落ち着いた語り口は、施工の現場を直接担わない管理者だからこそ持てる冷静なバランス感覚を示していた。 渡部氏の言葉は、築古物件をめぐる判断に迷う多くの参加者にとって指針となり、同じ管理者の立場で活動する山口氏にとっても深く共鳴するものだった。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「渡部さんが語られた“見えない部分こそ価値を決める”という言葉には強く共感しました。私自身、管理者として数多くの事例に関わる中で、表面の美しさだけでは資産価値は守れないと痛感しています。DIYの喜びを大切にしつつ、安心と収益を確保するためには、プロに託すべき部分を見極めることが欠かせません。NPOの仲間とこうして経験を共有できることが、次の世代に知恵をつなぐ大きな力になると改めて感じています。」

編集後記

今回のセッションは、施工の現場を直接担わない管理者だからこそ見えてくる「DIYとプロの境界線」が大きなテーマとなりました。渡部氏の経験に基づいた冷静な視点は、築古物件再生の本質を浮かび上がらせ、山口氏の共感の言葉と共に、参加者に確かな指針を示していました。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。

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