DIYでできる壁紙修繕とプロの境界線|ヤモリサミット2025

小池理事の講演の様子

ヤモリサミット回顧録|壁紙修繕におけるDIYとプロの境界線

ヤモリサミットの司会席に腰を下ろしたとき、会場の空気にふわりと期待感が立ちのぼるのを感じた。
かつて壁紙の修繕は、職人だけの世界にあったもの。
けれど今では、DIYという文化がそっと日常に入り込み、少しずつ暮らしの中に根を張り始めている。

プロの知恵と、参加者たちのまっすぐな好奇心が出会うこのひととき。
いったいどんな発見が生まれ、どんな可能性が顔をのぞかせるのだろう――
そんなことを思いながら、私はそっとマイクに手を伸ばした。

DIYについてのセミナーを聴講する参加者

DIYとプロ、その境界線を探る

このテーマは、会場にいらした皆様にとっても、きっと大きな関心ごとだったはずだ。

住まいを自分の手で整えてみたい、という想いはあっても、
どこまでなら自分で手をかけられるのか。
そして、どのあたりから先はプロの力を借りるべきなのか――
その見極めは、費用や時間の問題だけでなく、仕上がりへの安心感にもつながってくる。

私は司会として登壇者の言葉をつなぎながら、
この「境界線」というテーマの奥行きを、あらためて感じていたところだった。

登壇した 小池光孝 氏は、職人歴30年以上という、まさにベテランのひとり。
その第一声は、ちょっと意外なものだった。
「既存の下地を活かすことが、いちばん効率的で美しいんです」

参加者の多くは、「新しい材料を使ったほうが、きれいに仕上がるんじゃないか」と考えていたようで、
その言葉に、少し驚いた表情を浮かべていた。

けれど小池氏は、穏やかに続ける。
「壁紙なら壁紙、塗装なら塗装。下地に合わせるのが、一番ムダがなくて、コストも抑えられる。
それって、DIYでもまったく同じなんですよ」

さらに印象的だったのは、小池氏が語った“初心者が陥りやすい勘違い”についての話だ。

多くの人が「まずは小さな空間から始めたほうが簡単だろう」と思い、
最初のDIYにトイレや洗面所を選びがちなのだという。
けれど実際は、狭い場所ほど体を動かしづらく、思った以上に作業が進まない。

「むしろ、家具のない広い壁面のほうが貼りやすいし、成功率も高いんです」
小池氏はそう語り、迷いなく言い切った。

その瞬間、会場のあちこちから小さな驚きの声がもれた。
常識をひっくり返すような提案に戸惑いつつも、
理にかなった説明に、ゆっくりとうなずく参加者の姿が印象的だった。

一方で、水まわりの修繕については、少し厳しい現実も語られた。

トイレや洗面台を取り外すとなると、どうしても配管まわりの作業が避けられず、
そこには常に“水漏れ”というリスクがつきまとう。
ほんの小さなミスが、思いがけない損失につながってしまうのだ。

「そこは、迷わずプロに任せてほしい」
小池氏はそう言い切った。

同席していた木本氏も、重ねるように続ける。
「責任の所在が曖昧になるのは、やっぱり危険です。
業者に依頼すれば、万が一トラブルがあっても、しっかり対応してもらえますから」

その瞬間、会場の空気がすっと引き締まったのがわかった。
“DIYの限界”を、冷静に見極めることの大切さが、静かに共有された場面だった。

このやり取りを通じて浮かび上がってきたのは――
DIYのいちばんの魅力は、「自由に挑戦できる」ことにある。
けれどその前提には、「無理をしない」という見極めが欠かせないのだと思う。

どんな材料を選ぶか。どこまでを自分の手でやるか。
そういったことをきちんと見きわめながら、できる範囲で楽しむ。
一方で、水まわりや下地処理のようにリスクの高い工程は、やはり職人に委ねる。

そんなふうに役割を分け合うことで、
暮らしを安全に、そしてもっと心地よく楽しむことができるのではないだろうか。

登壇者たちのやり取りを聞きながら、私はふと、
プロと施主が自然に協力し合う、そんな未来の内装業のかたちを思い描いていた。

山口剛

Point of View

小池氏の言葉には、現場で積み重ねてきた経験の機微が静かににじんでいた。
初心者がつまずきやすいところを丁寧に示しつつ、挑戦する楽しさにもそっと光を当ててくれる。
その気遣いとこだわりに、司会として心から敬意を抱いた。
プロの視点を惜しみなく共有してくださる姿勢こそが、これからの内装業を支えていくのだと、あらためて感じている。

壁紙の貼り方体験も盛況

砂壁とペイント、新しい挑戦のかたち

古い日本家屋や賃貸物件に残る「砂壁」は、多くの参加者にとって避けて通れないテーマだった。

その話題が登壇者の口から出た瞬間、会場の空気がふっと変わる。
観客の表情が一斉に引き締まり、うなずきながら聞き入る姿が、あちこちで見受けられた。

実のところ、私自身もこの話題には特別な思いがある。
砂壁は、見た目には素朴でどこか温かみもある。
けれど、ひとたび劣化が進んでしまうと、ほんの少し触れただけで、ぽろぽろと崩れてしまう。
私たちプロにとっても、何度となく頭を悩ませてきた、手強い相手なのだ。

だからこそ、「DIYでどこまで対応できるのか?」という問いには、
誰もが強い関心を寄せていたのだと思う。

小池氏は、経験豊かな視点からこう語った。
「砂壁は、シーラーやパテで固めようとしても、思った以上に時間も手間もかかるんです。
だから私は、ベニヤで封じ込めてしまう方法が、いちばん現実的だと考えています」

その言葉に、少し驚いた様子で目を丸くする参加者もいた。
多くの人が、「塗って補強するほうが正しい」と思い込んでいたからだろう。
けれど、小池氏の説明が進むにつれ、会場には徐々に納得の空気が広がっていった。

というのも、砂壁の下地にはモルタルやプラスターボード、土壁など、さまざまな種類があり、
それぞれに合わせた対処が必要になるからだ。

倉田氏も「まずは、どんな下地かを見極めることが何より大事です」と語り、
DIYにおいては「作業」だけでなく、「判断」こそが要になるという視点が強く印象づけられた。

話題はやがて、ペイントへと移っていった。

小池氏は、「壁紙の上から塗れるペイントは手軽なんですが、
ホームセンターで手に入る塗料だと、どうしてもムラになりやすい」と語る。

確かに、プロが使うような塗料を選べば、美しい仕上がりも期待できる。
けれど、そこには材料の扱い方や下地処理など、知識と経験が欠かせない。

参加者の多くは、「DIYだからこそ、簡単にできる方法」を求めていた一方で、
「せっかくなら、ちゃんと美しく仕上げたい」という思いも捨てがたかった。
その両方を叶えたいという願いが、このテーマをより深く、複雑なものにしていった。

私は司会者として、このやり取りを見守りながら、静かに思っていた。
内装の世界には、確かに新しい風が吹き始めている。

DIYは、単なる“節約の手段”ではなく、
“暮らしを楽しむ文化”として、少しずつ受け入れられはじめているのだ。

壁紙を自分の手で貼ってみる。
ペイントで部屋の雰囲気を変えてみる。
そんな小さな挑戦が、住まいへの愛着を育み、日々の暮らしを少しずつ豊かにしてくれる。

けれどその一方で、砂壁のように手ごわい素材もある。
DIYだけでは難しい領域が、たしかに存在している。

だからこそ、「ここはプロに頼もう」と判断する勇気もまた、
安全で心地よい住まいづくりには欠かせない要素なのだと、あらためて感じていた。

このセッションを通じて、参加者の多くが気づいたのではないだろうか。
「どこまで挑戦し、どこからプロに託すか」――そんな視点が、これからの住まいづくりには欠かせないということに。

DIYでできることを楽しみつつ、難しい部分は無理をせず、プロの手にゆだねる。
その柔軟な考え方こそが、これからの内装業に新しい光をもたらしてくれる。
私はそう信じて、セッションの余韻を噛みしめていた。

山口剛

Point of View

砂壁やペイントといった難しいテーマに対しても、小池氏は実直で誠実な視点を示してくださいました。
下地の種類をひとつひとつ丁寧に説明しながら、DIYの可能性と限界を、分かりやすく伝えてくださったことに感謝しています。
材料選びのひとつにまでこだわりが宿っていて、その姿勢こそが参加者にとっての大きな学びであり、
これからの内装業を支えていく、ひとつの指針になると感じました。

特設会場に設置されたミューラル、マスキングテープの下地とは思えない出来栄え

道具と知識が未来をひらく

プロの世界を支えてきたのは、確かな手技、そして何より“道具”の力だった。

会場に展示された「壁紙道具7点セット」の前では、多くの参加者が足を止め、
カッターやローラー、ブラシなどの道具を、興味深そうに手に取っていた。

整然と並んだその姿は、DIY初心者にとっては頼もしい味方のようであり、
プロにとっては長年ともに歩んできた、馴染み深い相棒のようでもあった。

その光景を眺めながら私は、
こうした道具の普及が、これからの内装の現場に、またひとつ新しい変化をもたらすのだろう――
そんな予感を、静かに抱いていた。

小池氏は、「この7点セットがあれば、基本的には大丈夫です」と迷いなく断言し、
道具選びに不安を抱えていた参加者たちの表情を、ふっとやわらげた。

なかでも印象的だったのが、カッターに関するアドバイスだ。
「大きな段ボール用ではなく、小さくて薄い刃のものを使うと、仕上がりが格段にきれいになります」
そう語る声には、細部へのこだわりと実感が込められていた。

その言葉に、多くの参加者が深くうなずきながら耳を傾けていた。
ただの“道具”ではなく、それを選ぶ視点こそが、仕上がりを左右する――
そんな気づきが、静かに会場に広がっていくのが感じられた。

質疑応答の時間には、こんな質問が投げかけられた。
「糊付き壁紙と、通常の壁紙では、接着の強さに違いはありますか?」

これに対し、小池氏は迷いなく答えた。
「実は、糊付きのほうがむしろ均一に貼れて、DIYには向いているんです」

プロが使う壁紙は、施工前に機械で糊を塗布するのが一般的だが、
DIYではその工程がムラになりやすく、仕上がりに差が出てしまう。
その点、あらかじめ糊がついている壁紙なら、作業がスムーズで、失敗も少なくて済む。

小池氏のその一言に、参加者たちはほっとしたような表情を見せた。
肩の力が抜けたのか、会場の空気がふんわりとやわらいだ瞬間だった。

さらに小池氏は、クッションフロア選びについても、こんなアドバイスを添えた。
「広い幅のものより、少し狭めのタイプを選んだほうが、初心者には扱いやすいですよ」

プロであれば、広幅の材料も難なく扱える。
けれど、慣れない手にはその大きさがかえって負担になり、思わぬ失敗につながることもある。
その微妙な“さじ加減”に寄り添った助言に、参加者たちは真剣な表情で耳を傾けていた。

司会としてこのやり取りのすべてを見届けながら、私は次第に確信するようになっていた。
内装の世界には、たしかに新しい時代が訪れつつある――と。

道具や知識が広く共有されることで、
誰もが住まいづくりに参加できる。そんな時代が、静かに、でも着実に近づいているのだ。

DIYが広がることで、プロの仕事が奪われるのではないか――
そんな不安の声もあるかもしれない。
けれど、実際にはその逆だと私は思っている。

自分の手で壁を貼り替え、空間を整える。
そんな経験を通して、暮らしへの愛着は深まり、
やがてプロに依頼する際の理解も、目線も、確実に変わっていく。

そうした往復が生まれ、信頼が育ち、
プロの領域は、もっと高度に、もっと創造的に磨かれていくはずだ。

この循環こそが、これからの内装業を豊かにしていく。
私は、そう信じてやまない。

山口剛

Point of View

小池氏が示してくださった道具選びの工夫や、糊付き壁紙の活用法には、初心者へのあたたかな配慮が感じられました。
細かな部分にまで宿るこだわりを惜しみなく伝え、参加者の不安をそっと安心へと変えてくださったことに、深く感謝しています。
その姿勢にはプロとしての矜持がにじみ、内装の未来を照らす静かな灯のように映りました。

編集後記

このセッションを振り返りながら、改めて感じたのは――
「住まいに自分の手を加える喜び」と、「プロに託す安心感」、そのどちらもが暮らしにとって欠かせないということ。

DIYの挑戦をあたたかく受けとめつつ、
細部に宿るこだわりや工夫を、惜しみなく語ってくださった登壇者の皆様。
その言葉のひとつひとつが、会場にいた誰かの背中をそっと押していたように思います。

あの時間に交わされた声が、それぞれの暮らしの中で、
少しずつ形になっていくことを願って――。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




[視察] ヌルデニム 端材から広がる内装材の未来──現場の熱気とアップサイクルの挑戦

デニム端材を塗り壁にしたヌルデニム

ヌルデニム──デニム端材を活かしたアップサイクル建材の可能性

日本の内装業界は、常に「廃棄」という宿命を抱えてきた。材料を使い切れず余剰が出る。施工の過程で出る端材は行き場を失う。だが、廃材を「ゴミ」ではなく「資源」として活かす取り組みが芽吹き始めている。卵殻を壁材に変えた日本エムテクスは、さらにデニム端材に着目し、新しい左官材「ヌルデニム」を生み出した。ワークショップの現場を追うと、笑いと苦労の交錯する中に、内装の未来を拓く手応えが見えてきた。今回は内装業における「アップサイクル」についてのレポートです。

アップサイクルで社会貢献を

デニム端材が内装材に生まれ変わる

デニムは丈夫で風合いがあり、ファッションでは長く愛されてきた。一方で縫製工場からは大量の端材が発生し、その多くは廃棄される。日本エムテクスは、卵殻をパウダー化して「エッグウォール」を開発した経験を生かし、繊維廃棄物の活用に踏み込んだ。瀬戸内デニムと協働し、砕いたデニム繊維を漆喰状の左官材に混ぜ込み、壁に塗り上げられる新素材「ヌルデニム」を誕生させたのである。

岡本氏は語る。
「案件ごとに試作するだけでは“きれいごと”にすぎません。流通に乗せ、量をさばける仕組みがあって初めて、廃材活用が業界の解決策になります」

挑戦はまだ途上だが、「捨てられる運命」にあった素材が、空間を彩る内装材へと生まれ変わる。その意義は大きい。
































山口剛

Point of View

「大量廃棄の宿命に挑む姿勢は、業界全体の希望になる。デニムのように愛されてきた素材が、もう一度住空間を彩るのなら、我々も新しい誇りを得られるはずだ。」

日本エムテクスでDIY体験

ヌルデニムのワークショップ、笑いと叱咤の渦中で

この日の体験ワークショップ。会場には職人など多様な人々が集まり、ヌルデニムを壁に塗る体験に挑戦した。

「指が痛い!」
「厚みを揃えるのが難しい」

あちこちから声が上がる。見守っていた年配の職人からは手厳しい叱咤が飛ぶ。
「素人のアレンジはいらん!まずは王道を極めろ!」

笑いが起こりながらも、会場の空気は真剣そのもの。岡本氏が実演を交え、厚みの基準を解説する。
「下塗りで0.5ミリ、仕上げで1ミリ程度。乾くと厚い部分が痩せ、自然なテクスチャーが浮かび上がります」

参加者の一人は首をかしげる。
「塗りたてと乾いた後の色味、その差を読むのが本当に難しいですね」

確かに、デニム特有のインディゴブルーは乾燥過程で表情を変える。某自動車メーカーのコーポレートカラーを再現した事例では、その色合わせに大きな苦労があったという。

やがて会場はユーモラスな発想の場にも変わる。
「マグネットを仕込んで冷蔵庫に貼れるうさぎを作ろう」
「モザイクタイルのように剥がして貼るのはどうか」

遊び心に満ちた提案は、素材の柔軟性を示す証でもあった。
































山口剛

Point of View

「笑いと叱咤の混じる場でこそ、素材は“生き物”になる。参加者が一緒に試行錯誤し、デニムが空間に息を吹き込む瞬間を共有した。この熱気を、業界の力に変えていきたい。」

調湿性とデザインを兼ね備えたヌルデニム

施工のリアル──DIYと責任施工のあいだ

ヌルデニムは「デザイン性に特化した左官材」としての魅力を放つ。しかし施工現場には現実的な課題が横たわる。

「天井は落ちやすい。壁面なら安定するが、薄塗りを二度重ねないと難しい」
「乾燥の進行が違うと、午前に塗った面と午後に塗った面で質感が変わってしまう」

岡本氏は体験談を交えて語る。施工は一気呵成に仕上げねばならず、半日の休憩が命取りになることもある。DIY志向のユーザーにとっては挑戦的だが、一方で 責任施工 の体制を整えることで職人の仕事が確保される。流通面でも、内装業者を介して適正な価格と責任施工を両立させる仕組みづくりが議論された。

「調湿性能で売るのではなく、まずはデザイン材として位置づけるべき」
参加者の一人がそう指摘すると、会場の空気がうなずきに変わった。性能を過剰に謳うのではなく、デザイン性を軸に据える。それがヌルデニムを長く定着させるための現実的な道筋である。

山口剛

Point of View

「DIYでも扱える間口を持ちながら、責任施工で職人の腕を生かす──その両立が業界の未来だ。ヌルデニムは、そのバランスを探る“試金石”になるだろう。」

開発技術がSDGsの根源

やらない善よりやる偽善──業界に広がる連帯の兆し

議論の終盤、岡本氏はこう言った。
「僕らがやっていることは、大した量にはなっていないかもしれません。でも、誰かの気づきのきっかけになれば意味がある。やらない善より、やる偽善。まずは動くことが大事なんです」

その言葉に、参加者の多くが静かにうなずいた。内装業界が抱える廃材問題は一社の努力では解決しない。だが仲間が増えれば可能性は広がる。

某自動車メーカーのショールーム施工、非住宅施設での導入事例など、ヌルデニムは既に新しい舞台に立ち始めている。今後は二酸化炭素吸収型タイルなど、さらに持続可能性を追求する素材開発も視野に入るという。

ヌルデニム視察などフィールドワークを重視している

山口剛

Point of View

「“やらない善よりやる偽善”。その言葉は、業界にとって合言葉になる。廃材の再生を笑われてもいい、まずはやる。その積み重ねが、循環型社会を現実にする力になる。」

編集後記

廃材に価値を見いだし、内装業界に新しい可能性を示す取り組み。それは一社や一人の挑戦ではなく、業界全体で取り組むべき課題である。
NPO法人住環境工事研究会は、この活動を広げる仲間を求めている。キャッチコピーは「日本の住環境をオモロく」。廃材を資源に変え、職人と設計者、メーカーと施工者が手を取り合う。そんな未来を共につくるために。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




サンフット施工の未来 〜北三突板シートの現場貼りから倉庫施工(オフサイト施工)への転換点

自然素材のサンフットの施工イメージ

『サンフット突板シート施工の革新〜現場貼りの限界を超える新時代の内装工法』

内装業界の革新を追うけの蒸し暑い午後だった。サンフット という特殊な 突板シート の施工現場を取材するためである。この素材が内装業界にもたらす変化を、私は数年来追い続けてきた。現場での限界を超え、倉庫での施工にシフトする動きは、単なる技術的な転換を超えて、業界全体の構造変化を予感させるものだった。

北三視察の様子

関連記事「サンフットでお馴染み、北三視察」はこちらからご覧ください。

北三株式会社が手掛ける高級内装材「サンフット」。創業101年を迎える老舗企業が、いかにして現代のニーズに応え、高品質な天然木材を提供し続けているのか。

サンフットを倉庫で貼って納品する

現場から倉庫へ – パラダイムシフトの始まり

~ 現場貼りの限界と新たな可能性 ~
相互建装の木本氏との対話は、業界の現実を如実に映し出していた。 突板貼り という繊細な作業が、なぜ現場では困難なのか。その根本的な問題は、単純に技術的な難しさだけではなかった。
「突板って、現場で貼ろうとしても、実際のスペースが確保できなかったり、他業種と被ったりして作業できないことが多い」と木本氏は語る。現場の混雑、工程の重複、そして突板という素材の特性が重なり合って、従来の現場施工では限界があることが明らかになってきた。
私が取材を重ねる中で見えてきたのは、この問題が業界全体の構造的な課題であるということだった。ゼネコンから下請けまで、誰もが「貼れる人がいない」「現場で貼る場所がない」という同じ悩みを抱えている。
木本氏の会社が提供する倉庫施工サービスは、そうした現場の切実なニーズから生まれた解決策だった。「現場で『貼れませんねぇ』って話になったとき、スマホでパッと見せて『プレカット ではないですが、うちの倉庫でこういうふうにやってますよ』って案内できますから」という木本氏の言葉に、新しい時代の到来を感じた。
現状では確かに現場貼りがメインストリームだが、私は今後5年から10年の間に、貼ってから納品する方式(オフサイト施工)が主流になると予測している。それは単なる技術的な進歩ではなく、業界全体の 働き方改革 につながる大きな変化になるはずだ。

山口剛

Point of View

「倉庫での施工が標準化されれば、内装業界は確実に変わる。現場の制約から解放された職人たちが、本来の技術力を発揮できる環境が整うのだ。これは業界にとって大きな転換点になるだろう。」

専用の倉庫から職人が貼ったサンフットを出荷

人材育成と世代継承の新しいかたち

~ 若手育成 の戦略化と高齢化対策~
私が最も注目しているのは、このシフトが人材育成に与える影響である。現場での突板貼りは、環境の不確定要素が多すぎて、若手の見習い期間が長期化する傾向にあった。しかし、倉庫という管理された環境では、その問題が劇的に改善される可能性がある。価格の高い高級な仕上げ材を扱う業種においては特に顕著だろう。
「倉庫なら温度も湿度も管理しやすいし、何よりスペースが取れる。あと作業する職人さんが突板に慣れているかどうかも重要」と木本氏が説明するように、安定した環境での継続的な作業は、技術習得のスピードを格段に向上させる。
見習い期間の最小化は、若年層の戦力化を早める。従来なら3年かかっていた技術習得が、1年半程度に短縮される可能性もある。これは業界の 人手不足 解消に直結する変化だ。
同時に、 高齢化 が進む職人層にとっても朗報である。現場での重労働から解放され、技術と経験を活かせる環境が提供される。「同じ職人が一貫して作業できる。慣れてる人がやるっていうのは、やっぱり大きいですよ」という木本氏の指摘は、ベテランの 職人の価値 を再認識させるものだった。
体力が衰えても、技術力は衰えない。倉庫施工は、そうしたシニア層の職人たちに新たな活躍の場を提供する。これは単なる雇用延長ではなく、貴重な技術の継承を促進する仕組みでもある。

山口剛

Point of View

「技術は継承されるべきものだ。現場の制約に縛られず、純粋に技術力で勝負できる環境こそが、真の職人を育て、そして活かすことができる。この変化は、業界の人材育成を根本から変えるだろう。」

高齢者や若手の職人の為の働き方改革でもある

自然回帰と業界の未来展望

~工期短縮と品質向上の両立~
倉庫施工のもう一つの大きなメリットは、工期の大幅な短縮である。現場での調整時間、待機時間、やり直しのリスクが大幅に削減されることで、全体のスケジュール管理が格段に向上する。
「貼った後に寝かせる時間って必要なんですけど、現場ではそれが取れない」と木本氏が語るように、突板という素材の特性を活かすためには、十分な時間管理が必要だった。倉庫施工では、そうした工程を適切に管理できるため、結果的に 工期短縮 と品質向上が同時に実現される。
私がこの取材を通じて強く感じたのは、サンフットのような 自然素材 への回帰が、内装業界の本質的な価値を再確認させているということだった。「天然木 の風合いは、どんな印刷技術でも再現できない」という木本氏の言葉は、デジタル化が進む時代だからこそ響く真実である。
相互建装のような企業の躍進は、単なる一企業の成功を超えて、業界全体の方向性を示している。技術革新と伝統技法の融合、効率化と品質向上の両立、そして何より、職人という存在の価値を再定義する動きの象徴なのである。

山口剛

Point of View

「内装業界は今、大きな転換点に立っている。サンフットという素材が示すのは、自然素材への回帰と技術革新の融合だ。相互建装の挑戦は、この業界の未来を明るく照らしている。私たちは確実に新しい時代の扉を開こうとしているのだ。」

相互建装の挑戦を見届けたい

編集後記

如何でしょうか?
現場という制約に挑み、倉庫という新たなフィールドへと舞台を移すサンフットの施工革命。その背後には、ただの技術革新では語りきれない、職人たちの働き方、生き方にまで影響を与える深い変化がありました。
自然素材への敬意と、人の技術が交差するこのシフトは、若手育成の効率化やベテラン職人の活躍の場の再創出など、内装業界の構造を根底から揺さぶるものです。
そして今、私たちはその変化の最前線に立ち会っています。サンフットが示す未来は、単なる施工技術の転換ではなく、「人と技術と素材」が織りなす新しい時代の幕開けなのかもしれません。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。