内本氏と田村氏の講演の様子

古さを味に変える築古物件リフォーム|DIYとプロに学ぶ修繕のコツ

築古の住まいには、年月を重ねたからこそ漂う独特の趣があります。けれど同時に、老朽化や不具合とどう向き合うかが課題になります。大掛かりな工事だけが答えではなく、小さな工夫や手入れによって、その古さを「味わい」へと変えることも可能です。本稿では、プロたちの経験を交えながら、安心して暮らしを整えるための修繕の知恵を辿っていきます。

築古だからこそ発想の転換が必要

築古物件リフォームの第一歩|見えない部分を守る基礎の修繕

築古物件を前にしたとき、まず心に留めたいのは「見えない部分こそが命」ということです。外から眺めれば壁紙や床材の劣化に目を奪われがちですが、実際に建物の寿命を決めるのは下地や屋根、基礎といった内部の構造です。ここをないがしろにすれば、どれほど美しい意匠を施しても、やがて大きな修繕費を伴う事態に直面してしまいます。
内本氏はセッションの中でこう語りました。
「下地が大事です。仕上げてしまえば見えない部分は、今しか直せないんです」
その言葉には、現場で培われた実感がこもっていました。仕上げの陰に隠れる箇所こそ、最初の改修時にしっかりと手を入れるべき場所です。
特に留意すべきは「頭」と「足元」です。頭は屋根や天井、足元は基礎や土台にあたります。瓦屋根はしばしば敬遠されがちですが、現代の乾式工法を用いれば重量の問題も解消され、むしろ長寿命で維持管理しやすい素材です。台風後の点検は欠かせませんが、適切に扱えば優れた屋根材として力を発揮します。
一方、足元にはシロアリや腐朽のリスクが潜みます。阪神大震災で倒壊した住宅の多くが、実は基礎部分の劣化を要因としていました。普段は目に触れない箇所だからこそ、改修時には特に注意を払う必要があります。
内本氏は続けます。
「屋根の雨漏りは一滴でも放置してはいけません。修繕を怠れば、やがて全壊につながります」
会場にいた多くの参加者が深くうなずいていたのが印象的でした。
さらに外構においては、電柱の移設のように土地の使い勝手を左右する工夫もあります。制約だと諦めがちな事柄も、正しい申請を行えば改善できる場合があり、限られた土地を有効に活用する鍵となります。
築古物件の魅力を引き出す第一歩は、意匠を整えることではなく、建物を支える見えない部分をいかに健全に保つかという姿勢にあります。ここに投資を惜しまなければ、長期的な安心が得られるのです。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「築古物件に向き合うとき、どうしても見た目の古さに目がいきがちです。しかし実際には、屋根や基礎といった普段見えない部分にこそ、本当の価値が潜んでいます。内本氏の言葉にあった『下地が大事』という指摘は、私にとっても大きな学びでした。見えない部分を大切にする姿勢こそが、未来の安心を築く礎となるのだと改めて感じています」

古さと調和する内装リフォーム|水回り・設備の境界線と工夫

築古物件を再生するときに多くの人が悩むのは、「どこまでDIYで可能か、どこからプロに任せるべきか」という境界線です。壁紙の張替えや床材の変更などは手を動かせば比較的取り組みやすいですが、水回りや電気設備はリスクを伴うため注意が必要です。水漏れや火災といった重大な事故につながりかねず、専門の技術を持つ職人に依頼するのが安心です。
内本氏は次のように強調しました。
「水回りや電気設備はDIYで無理にやるべきではありません。特に分電盤は寿命があり、古いままでは火災の危険性もあるんです」
この指摘は、表面的な修繕に気を取られがちな私たちにとって重要な警鐘といえます。
一方で、DIYでも工夫できる余地は多く存在します。例えば、壁紙を一面だけ張り替える「アクセントクロス」は初心者でも取り入れやすい方法です。田村氏は、古い漆喰壁の一部に深い緑色の壁紙を加えた事例を紹介し、「空間全体を張り替えなくても印象は大きく変わる」と話しました。小規模な工夫で古さを和らげ、新しさと調和させることが可能です。
また、設備の刷新を最小限に抑えつつ雰囲気を高める工夫も紹介されました。田村氏は「既存の窓枠の色を拾い、それに合わせたリメイクシートを使えば古さが目立ちにくくなる」と提案しました。新しい設備を入れるほどに古さが際立つケースも多く、むしろ古い要素に寄り添った工夫が効果を発揮するのです。
さらに、照明や洗面ボウルなどの小物選びも重要な要素です。古民家や築古物件では、現代的な設備を無理に入れるよりも、和の要素を取り入れたパーツを組み合わせることで全体の統一感が生まれます。Amazonなどで手頃に入手できる陶器の洗面ボウルを使った事例も披露され、参加者の関心を集めました。
このように、内装の修繕は「プロに頼むべき部分」と「DIYで楽しめる部分」を切り分けることが鍵です。安心を損なう部分は専門家に任せ、そのうえで調和を大切にした工夫を取り入れることが、築古物件を魅力ある空間へと変えていきます。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「築古物件の改修で迷いやすいのは、どこまで自分で取り組めるかという点です。内本氏の『水回りや電気は必ずプロに』という言葉には深い説得力がありました。その一方で田村氏の『古さに寄り添う工夫が大切』という提案も印象的でした。安全と調和、この二つの視点を意識することが、築古物件を安心かつ魅力的に再生する道筋になるのだと改めて実感しています」

築古物件を魅せるインテリア術|和の要素と現代デザインの融合

築古物件を再生するとき、最も楽しさを感じられるのはインテリアの工夫です。表面的な古さを隠すのではなく、空間の持つ歴史を活かしながら現代的な感性を融合させることで、唯一無二の魅力が生まれます。特に和室や襖、畳といった伝統的な要素は、少しの工夫で見違えるほど空間を引き立てます。
田村氏は軽井沢の別荘を改修した事例を紹介しました。
「腰下の壁だけ壁紙を貼り替えると、全体の印象が大きく変わります。全面をやらなくても部分的な工夫で十分に雰囲気を変えられるんです」
小規模なアプローチでも空間を刷新できることを示す好例でした。
また、襖紙や畳の表替えはコストを抑えつつ印象を変える代表的な方法です。襖に柄物を選んだり、畳表を新調するだけで古さは味わいに変わります。和のテイストを生かす発想は、日本の住文化に根ざす空間でこそ力を発揮します。
さらに注目したいのが「和と洋の融合」です。田村氏はこう語りました。
「和柄の壁紙や障子紙を洋室に取り入れるだけで、空間の印象はがらりと変わります。外国人の方にも人気が高く、民泊やレンタルスペースでは特に効果的です」
従来は洋風に寄せることがおしゃれだと考えられがちでしたが、近年は日本の要素を積極的に取り入れる「ジャパンディ」スタイルも注目されています。
また、色彩の統一も空間を美しく見せる大切なポイントです。壁や天井、木部を同系色でまとめることで線が減り、視覚的にすっきりとした印象になります。築古物件では部材の色がばらばらになりがちですが、塗装やクロスで色を整えるだけで統一感が生まれます。
DIYでも挑戦できる工夫として、マスキングテープと両面テープを活用した壁紙の貼り付けも紹介されました。短時間で雰囲気を変えることができ、借家やイベント会場でも応用可能です。こうした手法は費用を抑えつつ華やかさを演出するのに適しています。
築古物件は新築のような完璧さを目指すよりも、古さを「味」として取り込み、現代的な感性を添えることで輝きを放ちます。和の要素を活かす視点と、部分的なリフォームの柔軟さこそが、築古物件を魅せる最大の秘訣なのです。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「築古物件の魅力は、決して古さを隠すことではなく、その古さをどう生かすかにあります。田村氏の『和柄を取り入れることで空間が映える』という提案には深く共感しました。和と洋のバランスを調え、部分的な工夫を積み重ねることで、建物は新しい表情を見せてくれます。古さを味わいに変える発想こそが、私たちが未来へ残す住まいづくりの大切な鍵なのだと思います」

編集後記

築古物件の修繕は、単に古さを隠す作業ではなく、建物が持つ時間の重みを味わいに変える営みだと感じます。内本氏、田村氏の実例からは、安全性を守る知恵と調和を生み出す工夫が伝わりました。未来の暮らしを支えるのは、こうした確かな技術と柔軟な発想の積み重ねなのだと改めて思います。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。

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