【ニュース解説】壁紙AI識別アプリが示す業務効率化の限界——建築業界が次に問うべきこと

カベピタ登録者3万人へ

壁紙AI識別アプリ「かべぴた」3万人突破——業務効率化の先に建築業界が問うべき体験価値とは

元記事:【会員3万人突破】壁紙AI識別アプリ「かべぴた」ユーザー待望の「メーカー絞り込み機能」新搭載

サマリー

壁紙の品番をスマホで撮るだけで特定できるAIアプリ「かべぴた」が会員3万人を突破! 待望のメーカー絞り込み機能も追加され、現場の壁紙探しがさらに楽になる見込み。

要点

【事実】 壁紙AI識別アプリ「かべぴた」が会員3万人突破・新機能追加 

【本質】 職人の”壁紙品番探し”という長年のアナログ作業をAIで代替 

【影響】 数時間かかっていた品番確認が数秒に短縮され現場効率が激変 

【変化】 普及品に続きデザイン壁紙への対応拡張で、業界標準ツールになる可能性

当NPOの理事がこのニュースを分かりやすく解説

壁紙AI識別アプリ「かべぴた」3万人突破——業務効率化の先に何があるのか

■ AIによる業務効率化は何を変えたのか

数時間の作業が数秒になる、これは小さくない変化だ

壁紙の品番確認は、現場では地味ながら確実に時間を奪う作業だった。似たような柄が600種以上並ぶ量産クロスの中から該当品番を探し出す作業は、熟練者でも数時間かかるケースがある。「かべぴた」はその工程をスマホ撮影だけで数秒に圧縮する。精度も業界最高水準とされており、最上位候補の正解率約90%という数字は実務に耐えうる水準と見ていい。

廃番品への対応も見逃せない。データ未登録の品番でも近似品番を5件提示できる機能は、補修案件の多い現場では特に実用価値が高く、大幅に 業務効率化 が図れる可能性がある。

■ この動きの本質はどこにあるのか

「品番ガラパゴス」に最適化されたAIという構造

注目すべきは、このアプリが建築業界の特殊な商習慣にそのまま適合している点だ。壁紙業界は長年、品番・見本帳・在庫・補修という固定的な軸で競争が行われてきた。言わば「型にはめた選択肢の中で最適解を探す」ことが業務の中心だった。

今回の AI活用 は、そのガラパゴス的な構造の中に精度よく組み込まれたものであり、業界の外側から市場を変えようとするものではない。だからこそ、現場への受容性が高く、3万人超という登録者数につながったと解釈できる。

一方で、見積りから失注に至る確率が5〜7割に上るとも言われるこの業界において、品番確認の効率化だけで事業の収益構造が改善するわけではない。「探す時間を削減したその先」に、何を置くのかという問いはまだ答えが出ていない。

■ 建築業界は今後どこに向かうのか

効率化の次は「体験価値」への問い直しが来る

時間が圧縮されれば、次に問われるのは「その時間で何をするか」だ。AIが検索・照合を担う時代において、人が担うべき領域は提案・ストーリー・顧客体験 の設計へとシフトしていく。

デジタルカタログひとつとっても、現状はPDFをオンラインに置いただけの状態にとどまるメーカーが大半で、UIや情報設計の面では他業界と比較して大きく後れを取っている。消費者がデモグラフィックではなくサイコグラフィック(価値観・ライフスタイル)で選ぶ時代に、業界がどこまで対応できるかが今後の競争軸になるだろう。

「かべぴた」は効率化ツールとして優れた取り組みだ。ただし、これを「DX推進の成果」として完結させてしまうのは早計に思う。業務改善と顧客体験価値の向上は、別の問いとして立て続けに問い直されるべき段階に、業界は差し掛かっている。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




【理事インタビュー】インテリアコーディネーターが地方で独立・継続できる理由——提案価値を武器に施工まで獲得したキャリアの実践録

インテリアコーディネーターの独立開業について解説

インテリアコーディネーターが地方で独立 提案価値を施工につなげた、デザイントーク・大谷氏のキャリア

北海道・旭川を拠点に、インテリアコーディネートと空間デザインを手がけるデザイントーク有限会社 代表の 大谷薫 さん。建設業を営む家庭に育ち、ニトリでの外商経験、大学院での学び直し、そして二人の子どもを育てながらの独立——その軌跡は、「遠回り」に見えて実は一本の線でつながっている。AI時代を迎えた今、「捨てない暮らし」を軸に内装業の新領域を切り拓く大谷さんに、キャリアの原点と業界への思いを聞いた。

目次


プロフィール Profiles

語り手

聞き手

~捨てない暮らしの先にあるもの~Antaa lab

AntaaLabが手掛ける建具や家具のリメイクを使用した内装。循環型社会とデザインの融合を旭川から発信している。








インテリアコーディネーターの独立は難しい

地方の内装業者こそ、全国ネットワークへ飛び込むべき理由——NPO法人加入が変えた情報格差と経営の視野

北海道・旭川を拠点に事業を営む大谷さんが、NPO法人住環境工事研究会の存在を知ったのは2013年。 壁紙屋本舗 等が出展した札幌のイベント会場に足を運んだとき、ひとつのブースが目に留まった。

「輸入壁紙 を使って、貼ったり切ったりしながらインテリアを楽しんでいる。うちのコンセプトである『インテリアを楽しく』と重なって、思わず声をかけたんです」

ブースを担当していたのが、当時の矢野社長(矢野哲夫 氏)だった。「こういうお店を私もやってみたいのですが、どうしたらいいですか」と率直に問いかけると、「自分だけでは決められない。壁紙屋本舗さんの了解が必要で、北海道で扱える店舗数にも限りがある」との返答。そのとき、目の前を 濱本さん(濱本廣一 氏)が通りかかった。矢野社長に紹介してもらい、人だかりの中でようやく話せた濱本さんから「矢野さんがOKなら大丈夫」という言葉をもらう。翌日には矢野社長へ電話し、翌週には直接会いに行った。

山口: それは積極的でしたね。最初にNPOへの加入を検討したとき、どんな印象でしたか。

大谷: 今とは全く違いましたね。「仲間に入れてもらえるかどうかはあなた次第」というスタンスで、毎月東京に来られるかどうかが最初の条件でした。入会金も含め、参加のハードルはなかなか高かったですね。

山口: それでも飛び込んだ決め手は何でしたか。

大谷: 同じ商材を扱う業者が全国でネットワークを持ち、一緒に販路開拓や商品開発をしているというところに、強く惹かれました。北海道にいると、どうしても情報の感度が鈍くなりやすい。うちの会社がある旭川は建設業が多い地域で、その中でどうお客様に求められる企業であり続けるかがずっと課題でした。皆さんの話を直接聞けることは、それだけで価値があると感じました。

山口: 業種が違っても、事業への向き合い方や新しい視点が得られるというのは、地方の事業者には特に大きいですよね。

大谷: そうなんです。濱本さんや矢野さんのように、常に次の一手を打ち続けている方々と直接対話できる。ECサイトへの投資もそうですし、新しい社屋への決断もそう。あの行動力から学べることは本当に多かったですね。ネットワークの価値は、情報だけじゃなくて、NPOメンバーから受け取る刺激が魅力だと感じています。

山口剛

Point of View

地方の内装業者が抱える「情報格差」は、受け身でいる限り縮まらない。大谷さんが展示会の会場で声をかけ、翌週には直接会いに行った、この行動力こそが今のキャリアを形成しているのだろう。業界団体への参加は「コスト」ではなく「投資」であり、全国水準の感度を持ち続けることが、地域に根ざした事業の競争力を支える。地方にいるからこそ、外に出ることをやめてはいけない。

インテリアの提案で心がけている事

「好きな仕事」を続けるために必要な土台

建設業の家庭で育ち、デザイン学科で気づいたインテリア業の本質

大谷さんの原点は、建設業を営む実家にある。父は朝から晩まで現場を駆け回り、母が経理を担う。設計事務所として始まり、施工まで手がける建設業へと発展した家業の傍らで、大谷さんは大工たちと卓球をして育った。

「土場に卓球台が置いてあって、大工さんたちとよく遊んでいました。写真を整理したら、誰かの膝の上に乗っている子どもの頃の自分が出てきて(笑)。職人さんに可愛がってもらっていたんだと思います」

そんな大谷さんだが、子どもの頃は非常に内向的だったという。最近実家を片付けていたら通知表が出てきて、「おとなしい」「発言が少し増えてきた」という担任のコメントが並んでいた。「我慢強い」という言葉も多かった。

山口: 今の大谷さんからはなかなか想像できませんね(笑)。進路はどのように考えられたんですか。

大谷: 商業高校に進んだのですが、事務職に全くときめきが持てなくて。その高校では歴代初めての進学者だったので先生にとても心配されましたが、地元に東海大学のデザイン学科があって、「デザインって何だろう、面白そう」と感じて進むことにしました。就職先が想像しにくいと周囲には言われましたが、両親が「いいんじゃない、やってみたら」と背中を押してくれて。

山口: デザイン学科の4年間はいかがでしたか。

大谷: 本当に楽しかったです。インダストリアルデザインを専攻して、製品計画や 空間設計 なども学びました。1年生のときは少し遊んでしまいましたが、2〜3年生からスイッチが入って、一番前に座って授業を聞くようになりました。モノを想像して形にすることの楽しさに、その頃ようやく気づいた感じです。今の仕事に通じるものが、全部そこにありましたね。

就職先はニトリを選んだ。説明会で会社の理念と熱量に強く惹かれ、「絶対ここに入りたい」と思った。しかし、一緒に参加した友人が「この会社苦手」と言っていた、というのも象徴的だろう。

山口: ニトリに惚れた理由はどんなところでしたか。

大谷: やっぱり「お客様のために」という思いが根底にある会社だと感じたんです。当時は平均年齢27歳くらいの若い組織で、非常に活気がありました。個人の頑張りに対してきちんと応えてくれる会社だということも、説明会の言葉の端々から伝わってきた。友人が苦手と感じたその熱さが、私にはまっすぐ刺さったんだと思います。

山口剛

Point of View

大谷さんのキャリアを追うと、「好き」を入口にしながら、その都度きちんと学び直し、結果で証明するというサイクルが繰り返されているのに気づく。デザイン学科を選んだ直感も、ニトリに飛び込んだ熱量も、根っこは同じだ。インテリア業界を志す人に伝えたいのは、センスより先に「なぜこの仕事をするのか」を問い続けることが、長いキャリアを支える軸になるということだ。

創造性と同じくらいに数字が大事

1億円を売るより大切なこと——ニトリ外商部で学んだ「数字で語れるコーディネーター」の条件

ニトリに入社した大谷さんが最初に配属されたのは、カーテン部門の販売員だった。同期の男性たちと売上を競いながら、少しずつ結果を出していった。1年半ほどで外商部へ異動になる。婚礼家具を中心とした営業の部署だ。

「おじさんばかりの部署に、22〜23歳でポンと放り込まれました。最初はなかなか成果が出なくて、正直サボっていた時期もありました。」

山口: そこからどうやって立て直したんですか。

大谷: あるとき、気持ちがスッと切り替わったんです。それからはコーディネーターの資格に挑戦して、4回目でようやく合格。翌年に建築士、その翌年に宅建と、一発合格が続きました。口に出して目標を宣言するようになったのもその頃で、「今年1億円売る」と周囲に言い始めたら、上司が案件を回してくれるようになって、実際に達成できました。

山口: 宣言することで、周りが動いてくれるようになったんですね。1億円達成の秘訣はどこにあったと思いますか。

大谷: 商品知識も生活経験もなかったので、特別なスキルがあったわけじゃないんです。ただ、お客様に対して誠実に向き合う姿勢だけは持っていたつもりで、それが伝わっていたのかもしれません。マンション一棟の照明プランをA・B・C案で提案して一斉に受注する、といった数字を意識した企画も自分で作っていて、そういうことを考えること自体が楽しかったですね。

数字を動かす面白さに気づく一方で、大谷さんは少しずつ違和感も覚え始めていた。1億円を達成すると、次は1億1千万円という目標が積み上がる。多くのお客様と接しながらも、顔を覚えられない状態が続いた。

山口: その違和感が、退職の判断につながったんですね。

大谷: そうです。数字が上がっていくこと自体は悪いことではないんですが、お客様の顔が見えなくなっていく感覚がどうしても拭えなくて。コーディネーターという仕事には、数字だけではなく、目の前の人の暮らしに向き合うという側面があると思っていますから。そこが満たされなくなったとき、「これは自分のやりたいことではないな」と感じました。

山口剛

Point of View

コーディネーターが「センスの仕事」と見られがちな業界で、大谷さんは徹底して数字と向き合い、成果で語り続けた。そして1億円という結果を手にしながら、それを手放す判断もできた。どちらも、自分の軸がはっきりしているから下せる決断だ。内装業界で長く活躍したいなら、美意識と数字感覚を同時に鍛えること。どちらか一方では、キャリアを支えきれない。

女性のキャリアをロングスパンで考える

大学院・子育て・派遣——その「遠回り」が独立の武器になる。インテリア業で長く活躍するためのキャリア設計

ニトリを退職したのは、結婚を機にしたキャリアの問い直しがきっかけだった。当時のニトリには、子育てをしながら働く女性社員のロールモデルがいなかった。自分がその姿を描けないまま働き続けることへの迷いが、背中を押した。

「夫が『大学院に行け』と言ってくれたんです。せっかく積み上げてきたキャリアを、もっと深めてみたらいいと。退職金を元手に入学しました」

山口: 社会人を経験してから入る大学院は、どんな感じでしたか。

大谷: めちゃくちゃ楽しかったです。在籍中に子どもが2人生まれて、ベビーカーを押しながら通ったり、お腹が大きいまま授業を受けたりしていました。研究生期間も含めると3年半ほどになりますが、卒業論文は出産や育児と重なって半年延期しながらなんとか仕上げました。今思えばよくやっていたなと思いますが、当時は必死でしたね(笑)。

研究生修了後は、東海大学の非常勤講師として14〜15年務めた。「さあ、社会へ」と気持ちを新たにしたのが35歳頃。しかし当時の求人には「30歳まで」という年齢制限が当たり前のように書かれていて、なかなか就職先が見つからなかった。

山口: そこでどう動かれたんですか。

大谷: TOTOの派遣社員の募集を見つけて、「自分のスキルに対して報酬が出るなら」と思い応募しました。派遣は自分の専門性で勝負できると思っていたので。ところが2年ほど勤めたころ、所長から「お前は独立したほうがいい」と言っていただいたことが、デザイントーク設立の直接のきっかけになりました。

山口: 矢野さんとの出会いもそうですが、節目ごとに背中を押してくれる方がいらっしゃいますね。

大谷: 本当にありがたいことです。ただ、ニトリの頃から独立願望はずっとあったので、タイミングと覚悟の問題だったとも思っています。子育て真っ最中でしたが、「やるしかない」と腹を決めました。固定費をできるだけ抑えようと、市の起業家支援施設のインキュベーションルームから始めました。家賃は月1万4千円ほど。デザイントーク立ち上げのスタートはそこでした。

大学院、子育て、非常勤講師、派遣社員——傍から見れば遠回りに映るかもしれない。だが大谷さんのキャリアを辿ると、それぞれの経験が独立後の事業を支える層として積み重なっていることがわかる。学び直しで得た専門性、子育てで培った段取り力、派遣で磨いたスキルへの自覚。どれひとつ、無駄ではなかった。

山口剛

Point of View

「遠回り」に見えるキャリアが、実は独立後の事業を支える「複利」になっていた。内装業界で独立を考える人に伝えたいのは、学びと経験はいつも無駄にならないということだ。焦って最短距離を探すより、自分の軸を持って積み上げた時間の方が、長く続く事業の礎になる。大谷さんのキャリアは、そのことを静かに、しかし力強く示している。

AI時代のキャリア形成、心がけている事

AI時代に内装業が生き残る新戦略——「捨てない暮らし」×空間デザインで拓く、コーディネーターの次の仕事

デザイントークを立ち上げてから、大谷さんはコーディネート業務を軸に事業を育ててきた。やがて下請けから元請けへの転換を意識し、建築工事の比率を高めていった。しかしコロナ禍を経て、ある問いが頭を離れなくなった。「市場全体がどう変わっていくのか、自分には視点が欠けていた」。

山口: コロナが大きな転機になったんですね。

大谷: そうです。NPOの勉強会でも毎年、業界の危機感が語られていましたが、正直なところ「頭では理解できるけど、自分に何ができるか?」で止まっていました。コロナで観光業が打撃を受けるのを目の当たりにして、一つの事業領域に依存することへのリスクを強く感じました。そのとき、リサイクル・リユースという社会の流れと自分の専門性を結びつけたらどうか、と考え始めたんです。

そして、リビセン(ReBuilding Center JAPAN)を知り、長野まで足を運んだ。アポイントは取れず、アポなしで突撃し、沢山の刺激を受けた。その足で奈良へ向かい、古材や古物を扱う店舗を見て回った。「まず空気感を探ってこよう」という行動力が、事業の輪郭を少しずつ形にしていった。

山口: そこから美瑛町の空き校舎活用へとつながっていくわけですね。

大谷: 事業再構築補助金の第2回に挑戦しようと準備を進めながら、できるだけ固定費を抑えられる拠点を探していました。美瑛町の空き校舎活用事業を知って、対象の校舎を全部調べて、今の場所に絞り込みました。補助金の採択前から美瑛町に企画を提案して、議会にかけていただくのと並行して申請書類も作る。採択されなかったらどうしようとは思いましたが、「絶対に取る」という気持ちで進みました。

山口: AntaaLabとして実際にスタートしてみて、いかがでしたか。

大谷: 最初はインテリア建材や内装資材の新古品の再販を想定していたのですが、一般の方の生活用品がどんどん持ち込まれるようになりました。「あそこは何でも引き取ってくれる」という口コミが広がって。壊れたものや割れたものまで来るようになったときは、正直戸惑いもありました(笑)。ただ、それが今のAntaaLabの方向性を決めてくれたとも思っています。

開設から3年。今は引き取ったものをどう循環させるかが課題だという。海外輸出、国内リサイクルショップへの引き渡し、そしてデザインを加えての アップサイクル。複数の出口を整備しながら、「同じものは二度と作れない一点物」の価値を積み上げている。

山口: 空間コーディネート とAntaaLabの循環事業が有機的につながっているのが、デザイントークさんのビジネスモデルの強みですよね。AI時代を迎えて、コーディネーターという仕事の役割はどう変わると思いますか。

大谷: AIを活用することで提案の幅は広がりますし、私自身も日々使っています。ただ、プロセスを一緒に楽しむこと、お客様の表情が変わる瞬間、完成したときの喜びを共に体感すること、そういった人と人との関わりはAIには代替できない価値だと思っています。カフェの依頼であれば、空間の形を整えるだけでなく、その事業が本当に成功するために何が必要かまで一緒に考える。お客様の暮らしや事業を豊かにしたいという根底の思いを大切にしながら、これからも取り組んでいきたいですね。

山口剛

Point of View

「捨てない暮らし」というコンセプトは、社会的な文脈と内装業の専門性を結びつける、今この時代にこそ必要な発想だ。大谷さんが示したのは、コーディネーターが「形を作る人」から「暮らしと事業を設計する人」へと進化できるという可能性だ。AIに仕事を奪われると嘆くより、AIを道具として使いながら、人にしかできない「共感と設計」を磨くこと。その実践者としての大谷さんのこれからに、大いに注目したい。

編集後記

取材を終えて印象に残るのは、大谷さんが「遠回り」を一度も後悔していないということだ。大学院、子育て、派遣——それぞれの場面で迷いながらも、自分の軸を手放さずに積み上げてきた。地方で内装業を営む日々の中で、情報格差や市場の変化に不安を感じている方は少なくないはずだ。だが大谷さんのキャリアは語っている。行動した分だけ、景色は変わると。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




空き家再生で年商1000万円起業家を輩出|地方創生の新モデル「JIN-TANO(ジンタノ)」

空き家で起業をサポート

地方創生の鍵、株式会社川幸はなぜ空き家再生事業に取り組むのか?|起業支援施設「ジンタノ」が実践する伴走型ビジネスモデル

愛知県高浜市。人口5万人に満たないこの小さな町で、一人の建築業者が静かに、しかし確実に地域の未来を変えようとしている。株式会社川幸の代表、神谷氏だ。屋根工事業を営みながら、16もの事業に挑戦してきた彼が50代後半で選んだ道は、古民家を再生したレンタルスペース「JIN-TANO(ジンタノ)」の運営だった。「田舎だからと諦めるのではなく、都市部でも地方でも、何かを始めたいという人の気持ちは同じ」。そう語る神谷氏の眼差しには、地方都市特有の諦めではなく、静かな確信があった。

Table of Contents


プロフィール Profiles

語り手

聞き手

空き家再生と地方創生を同時に考えるインフォグラフィック

空き家ビジネスを再考する

小さく始める勇気が地域を変える|多数の起業経験から生まれた空き家再生レンタルスペース「JIN-TANO(ジンタノ)」

かつて誰も見向きもしなかった古民家は、彼の手によって温かみのある起業家の拠点へと生まれ変わっていた。窓から差し込む柔らかな光が、DIYで整えられたテーブルや椅子を照らしている。

「これまで16の業種、16の企業に参加してきました。全てが成功したわけではありませんが、起業時の負担や費用面での苦労を経験してきました」と神谷氏は語った。その言葉には、失敗を恐れない起業家としての経験と、同じ道を歩もうとする人々への深い共感が滲んでいた。

きっかけは50代前半、自身の体の衰えを感じた時だったという。屋根工事業という肉体労働の将来を考えた時、神谷氏の中で何かが動き始めた。これまで自分が苦労してきた起業の道のりを、もっと楽に、もっと楽しく歩める場所を作りたい。起業したい方を支援できる場所があれば、共に楽しく事業を進められる。そんな思いが、レンタルスペース JIN-TANO(ジンタノ)という形になっていった。

興味深いのは、この事業を始めるにあたって神谷氏が誰にも相談しなかったことだ。家族にも従業員にも告げず、静かに準備を進めた。完成した時、周囲は驚きを隠せなかったという。しかし神谷氏の中には、明確な確信があった。

「田舎だからと諦めるのではなく、都市部でも地方でも、何かを始めたいという人の気持ちは同じです。場所さえあれば、やる気のある方が集まる」。彼のこの言葉は、地方創生の本質を突いている。問題は場所ではなく、機会の有無なのだ。

最初の賛同者は、偶然の出会いから生まれた。マルシェを主催していた石川氏が、市役所でふるさと納税の手続きをした際、担当者がジンタノを紹介したのだ。その日のうちに石川氏は現地を訪れ、「こんな場所が欲しかった」と即座に利用を決めた。行政職員の何気ない一言が、新しいビジネスの種を育てる土壌となった瞬間だった。

神谷氏が強調するのは、「小さく始める」ことの重要性だ。「小さく始めて、小さな失敗を繰り返しながら前進すれば、必ず道は開けます」。この哲学は、彼自身の16回にわたる起業経験から導き出されたものだ。大きな資本も、完璧な計画も必要ない。小資本で、短期間で、少人数で試してみる。その繰り返しの中に、本当の成功への道があるのだと。

ジンタノという名前の由来について尋ねると、神谷氏は穏やかに微笑んだ。詳細は語らなかったが、この場所が「人の縁(えにし)」を大切にする場であることは、その後の対話の中で十分に理解できた。

高浜市という地方都市で、サラリーマンの比率が年々増加している現実を、神谷氏は危機感を持って見つめていた。「新しい産業が生まれないことが問題です。新しいアイデアで新しい商売が生まれなければ、地域も国も活性化しません」。会社員という安定した働き方を否定するのではない。しかし、それだけでは地域の経済は循環しない。新しい挑戦をする人々が生まれ続けることが、地域の持続可能性を支えるのだという考えだ。

空き家という地域の課題を、起業支援という別の課題解決の手段に変える。空き家活用 という神谷氏のアプローチは、まさに地方創生の理想形だった。建築業者としての知識と技術、起業家としての経験、そして何より人を信じる力。これらが融合して、ジンタノという唯一無二の場所が誕生したのだ。

山口剛

Point of View

内装業に長年携わってきた私にとって、神谷氏の取り組みは新鮮な驚きだった。建築業者が単なる「場所の提供者」に留まらず、起業家の伴走者となる。これは従来の不動産ビジネスの枠を大きく超えている。特に印象的だったのは、失敗を恐れず16回も事業に挑戦してきた経験が、支援の質を高めているという点だ。理論ではなく、実践知に基づいた支援。これこそが地方に必要なものではないだろうか。

起業の為の要点を提言する

「好き」と「得意」だけでは続かない|財務・顧客視点・数字管理を伴走支援する起業家育成メソッド

ジンタノを訪れる起業家たちは、皆一様にポジティブでエネルギッシュだ。自分の好きなこと、得意なことを仕事にしたいという熱意に満ちている。しかし神谷氏は、その情熱だけでは事業は続かないことを知っている。

「得意なことと好きなことの二つの軸だけでは、必ず限界が来ます」と神谷氏は語った。数々の起業経験が教えてくれたのは、情熱と同じくらい、いや時にはそれ以上に「大事なこと」が存在するということだ。その「大事なこと」とは何か。それは採算性であり、集客方法であり、顧客視点であり、そして何より数字を把握する力だった。

印象的なエピソードがある。この地区でスイーツカフェを開きたいという方がジンタノに来た時のことだ。神谷氏は優しく、しかし明確に問いかけたという。「スイーツカフェもいいけれど、この地域でスイーツカフェを求めている方がどれだけいるでしょうか。実際には昼食を求めている方の方が多いのでは」。自分のやりたいことと、顧客が求めていることのギャップ。これに気づけるかどうかが、事業の成否を分ける。

別の事例では、タコスの試食会を開催した方がいた。お客様が来ているのに、その方は自分が作ったタコスばかりを見ていて、お客様の表情や反応を見ていなかったという。「飲食業で最も大切なのはお客様を見ることです」と神谷氏は指摘した。商品への愛情は大切だが、それ以上に顧客への関心が必要なのだ。

さらに神谷氏が徹底しているのは、数字管理の重要性だ。ある利用者に月次の売上一覧表の提出を依頼したところ、そもそも作成していなかったという。売上を毎日記録せず、原価も把握していない。「商売をやっているのか、遊んでいるのか」。神谷氏の言葉は厳しいが、その背景には深い愛情がある。

「数字は全世界共通の言語です」と神谷氏は言う。英語でも日本語でもなく、ビジネスの基礎言語は数字だ。売上、原価、利益、販売管理費。これらの数字を把握せずに事業を続けることは、地図を持たずに航海するようなものだ。神谷氏が利用者に求めるのは、この基本中の基本だった。

興味深いのは、神谷氏が「マーケティング」や「戦略」といった言葉をあえて使わないことだ。「うちに来る起業家の方々に5W1Hや戦略という言葉を使っても伝わりません。皆さん一気に引いてしまいます」。だからこそ、具体的で分かりやすい言葉で、一人ひとりに寄り添いながら伝えていく。世のコンサルタントのような華やかなプレゼンテーションではなく、地に足のついた対話。それが神谷氏の方法論だった。

実際、神谷氏が行っているのは、本質的には事業戦略の策定支援だ。なぜこの事業をやるのかというビジョン、1年後3年後の方針、自分の強みと弱みの分析、製品企画、流通チャンネルの設計。これらを利用者の状況に合わせてカスタマイズし、段階的に提示していく。まさに経営コンサルタントの仕事そのものだが、神谷氏はそれを「宿題」という形で、自然に、優しく提供している。

財務面のサポートも手厚い。利用者の財務状況を確認し、売上・利益・販売管理費を客観的に分析した上で、「これだったら続けられる」「これだったら見直した方がいい」と判断を示す。時には厳しい言葉もあるが、それは利用者の未来を本気で考えているからこそだ。

神谷氏が絶対にしないことがある。それは起業を無理に進めることだ。「早すぎることはあっても、遅すぎることはありません。本人がやりたい時にやりたいことをするのが最も幸せです」。準備が整わないまま資金を投入し、課題を解決せずに前進する。そうした性急さを、神谷氏は決して勧めない。

好きなことだけで進めば、早く限界が来る。しかし大事なことを一つひとつ積み重ねていけば、限界は遠退くのだ。動いてみることで自分の弱点や苦手な部分が見えてくる。それを受け入れ、学び、改善していく。ジンタノはそのプロセスを支える場所なのだ。

レンタルスペースやコワーキングスペースは全国に数多く存在する。しかし、ここまで深く、ここまで本質的に起業家を支援する場所は稀だろう。神谷氏が提供しているのは、単なる空間ではない。それは知恵であり、経験であり、時には厳しさを伴った愛情なのだ。

山口剛

Point of View

神谷氏の支援手法を見ていて、私は内装業の本質を考えさせられた。私たちは空間を作るが、その空間で何が行われるかまで責任を持つことは少ない。しかし神谷氏は違う。空間を提供し、そこで育つ事業の質にまでコミットしている。「好き」と「得意」に「大事」を加える。このシンプルだが深い哲学は、あらゆるビジネスに通じる真理ではないだろうか。数字という共通言語を大切にする姿勢も、ビジネスパーソンとして強く共感するものがあった。

起業家が地域社会を面白くする

年商1000万円の卒業生を生み出す仕組み|副業時代の受け皿から地域エコシステムへ

ジンタノの真価は、利用者が「卒業」した後に現れる。昨年は、2件の卒業事例があるという。神谷氏が一つの基準としているのは、年商1000万円だ。「その基礎を作る場所を、ジンタノで提供しています」と彼は語った。

卒業後のサポートも、神谷氏の支援の特徴だ。独立時には物件を紹介し、内装や外装の相談にも応じる。ジンタノで起業準備から伴走してきたからこそ、利用者の事業ドメインを深く理解している。その理解の上に立った施工提案は、通常の内装業者には提供できない価値だろう。「年商1000万から2000万へと成長できるようサポートしていきたい」という神谷氏の言葉には、卒業生への継続的な関心が表れていた。

ジンタノの強みは、空き家をカスタマイズしたノウハウにある。神谷氏自身がDIYで施設の5割以上を整備してきた経験が、卒業生への具体的なアドバイスを可能にしている。「自分でできることは自分で、プロに任せるべきことはプロに。その区分けを提供できます」。限られた予算の中で最大の効果を生み出す方法を、神谷氏は実践的に教えることができるのだ。

この地域にはレンタルスペースやレンタルオフィスがほとんどない。あっても狭く、利用しづらい。ジンタノは24時間利用可能で、個室から25人収容のセミナールームまで、用途に応じて選べる。テーブルや椅子のレイアウトも自由に変更でき、キャンドルイベント、お茶会、婚活イベント、忘年会、女子会、撮影、結婚パーティーまで、多様な用途で使われている。実際、安城市や西尾市といった周辺地域からも利用者が訪れるという。この自由度の高さが、ジンタノの比較優位性を生み出している。

神谷氏が注目しているのは、副業・複業という働き方の潮流だ。「副業や得意なことを収入に変えるトレンドは確実にあります」。一つの会社、一つの給料ではなく、複数の収入源を持つ生き方。それが社会的に認められれば、ジンタノのような場所の需要はさらに高まるだろう。実際、利用者の中には明確に本業と副業を分けていない人も多い。卒業していった2社も、副業として始めたことが本業になった。その境界は曖昧で、流動的だ。

ジンタノの社会的意義は、起業支援だけに留まらない。障害を持ち不登校だった中学生が、レンタルキッチンでお菓子作りをして社会性を身につけた事例がある。また、40年間教師を務めた方が「止まり木」という相談事業を展開し、発達障害や鬱など様々な悩みを抱える人々の受け皿となっている。「話すことで、解決の糸口を見つけられる方が多いです」と神谷氏は言う。

行政や医療の支援は確かに存在する。しかし、その枠組みから外れてしまう人々がいる。止まり木の島田先生は、どこからも支援を受けず、自由度高く活動している。「行政が手の届かない部分、各種支援からはみ出た方のサポートをされています」。この自由度の高さが、ジンタノとの親和性を生んでいる。

神谷氏の視点は、地域エコシステムの構築にまで及んでいる。行政、企業、個人といった固定的な枠組みを超えて、地域社会を支える有機的なつながり。ジンタノはまさにその結節点となっている。場所貸しであり、知恵貸しであり、スキル貸しでもある。様々な機能が重層的に絡み合い、一つの生命体のように動いている。

今後1年の計画について、神谷氏は具体的なビジョンを語った。ジンタノでスモールスタートした方に、高浜市内の空き家を紹介し、起業を提案する。カフェ開業を希望する方の開業を支援する。地域の輪を広げ、レンタルオフィスを増やす。そして何より、毎週末何かイベントが行われている場所にしたいという。「ジンタノに行けば必ず何かが見つかる」。そんなイメージを地域に定着させたいのだ。

年間の卒業目標は2〜3社。「地方都市の感覚では、3社あれば大成功です」と神谷氏は言う。現在の利用者は約50名。その中から年間2〜3件の起業が生まれる。一見控えめな数字に思えるかもしれないが、これが10年続けば20〜30社になる。地方都市において、それは決して小さなインパクトではない。

ジンタノで開催されるマルシェには2日間で約400名が訪れる。「物事を始めたい方に『やりたい』『やれそうだ』という感覚を持っていただけています」。この感覚の連鎖が、地域を少しずつ変えていく。新しい産業が生まれ、新しい挑戦が始まり、地域が活性化する。神谷氏が目指しているのは、そういう持続可能な循環なのだ。

今後は、卒業生や利用者のインタビュー企画やトークセッションも計画している。起業を検討している方々に、リアルな体験を共有する機会を提供する。「大事なことが何かを知ることで、多くの方が一歩を踏み出せるようになります」。成功体験の共有が、次の挑戦者を生む。その好循環を、神谷氏は着実に作り上げようとしている。

山口剛

Point of View

神谷氏の取り組みを俯瞰して見えてくるのは、単なるビジネスモデルを超えた「生態系」の構築だ。起業支援、社会的包摂、地域活性化。これらが有機的につながり、一つの循環を生み出している。内装業という仕事柄、私は多くの店舗や事業所の立ち上げに関わってきた。しかし、その後の伴走まで視野に入れた支援は稀だ。年間2〜3社という目標も、派手さはないが持続可能性がある。地方創生の本質は、こうした地道な積み重ねにこそあるのだと、神谷氏の話を聞いて改めて感じた。

編集後記

地方都市で事業を営む多くの方が、神谷氏と同じ想いを抱いているのではないだろうか。このままでは地域が衰退してしまうという危機感、しかし何から始めればいいのか分からないという戸惑い。神谷氏の実践は、その答えの一つを示している。大きな資本も華やかな計画も必要ない。小さく始め、失敗を恐れず、目の前の一人に真摯に向き合う。その積み重ねが、やがて地域を変える大きな力になる。あなたの町にも、きっと同じ可能性が眠っているはずだ。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




変わらない業界を変える|問屋が挑んだ内装業界DX推進の実践記録とアジャイル開発手法

内装業界のDXは実現するのか?

内装業界DX推進の実践記録|地方中小企業が実現した新規事業開発とユーザー中心設計の全プロセス

数十年変わらない商習慣、サプライヤー主導の市場構造、薄利多売 による 人手不足 ――内装業界が抱える構造的課題に、地方の一問屋が挑戦する。事業再構築補助金を活用し、ユーザー中心のデジタルサービスを開発。前職での経営経験、適切なパートナー選定、MVP開発とアジャイル手法の実践を通じて、業界変革への道を切り拓く。地方中小企業のDX推進における実践的な知見と、新規事業成功のエッセンスを余すことなく語る。

Table of Contents


プロフィール Profiles

語り手

聞き手

構造的課題とDXの本質を言及

内装業界が抱える構造的課題とDXの必要性

山口 問屋業に入ってから、業界におけるDXの必要性をずっと考えてきました。数十年変わらない商習慣――大量の見本帳を配り、長年の慣習通りに品番が決まり、職人が施工して請求・支払いをする――この構造が全く変わらない業界は珍しいと感じています。

伊藤 なるほど。

山口 課題認識としてあるのは、果たしてユーザーファーストな壁紙体験になっているかという点です。現状は経済合理性を追求した結果、安価で施工性の高い壁紙が市場の7割以上を占め、サプライヤー主導の業界構造になっています。

山口 結果として薄利多売の構造が定着し、職人の育成や組織化への投資が進まず、自営業化が進んでいます。人手不足や多忙な状況は、この構造的な問題から来ています。

伊藤 確かに。

山口 本来、壁紙体験の価値を最終的に受け取るのはエンドユーザーです。しかし、本当に施主やエンドユーザーに向き合ったプロダクト開発がされているかは疑問です。ユーザー体験を中心に据えた、プロダクト開発と商流設計の再構築が必要だと考えています。

なぜ内装業界は変化できなかったのか

山口 DX、デジタルトランスフォーメーションとは、デジタルの力で全く異なる状態に変容させることです。単なるIT化や業務改善システムの導入ではなく、業界自体がユーザーに向き合うための根本的な仕組みづくりにチャレンジしたいと考えました。

伊藤 分業にはメリットもありますが、現在の構造は団塊世代が住宅を持ち始めた40〜50年前から変わっていません。他業界では多様化が進んでいる中、なぜこの業界は経済合理性だけで来てしまったのでしょうか。

山口 根本的な原因は、事業者の視点が内向きだったことだと考えています。顧客が何を喜ぶかではなく、自社の成長や売上を最大の成果として捉えてきました。事業のビジョンやミッション、つまり「何のためにやるのか」という大義を失った経営が続いてきた結果ではないでしょうか。

伊藤 それは深刻ですね。

山口 売上や取引量の拡大だけを追求した結果、業界全体が薄利で低品質な構造になり、新規参入を阻む悪循環が生まれています。個々には優秀なコーディネーターやデザイナーが施主に向き合っていますが、それが業界全体の変化には至っていません。

分業構造が生む価格硬直化の問題

伊藤 分業構造では、業界全体で販売価格を上げないと 価格転嫁 が困難です。最終的にエンドユーザーに販売する人が価格を決めてしまうため、値上げしにくい構造があります。また、分業によって顧客の顔が見えない人が増えることも問題です。

山口 WALPA  の 濱本廣一 氏から「どの商品を買っても1000円の服屋で買いたいと思うか?」と問われ、考えさせられました。しかし内装業界では、それが当たり前になっています。様々な想いや素材、デザインがあるにもかかわらず、一律価格というのは本来ナンセンスです。

伊藤 たしかに不思議な構造ですね。

山口 競争環境が整っていたからこそ、日本が壁紙大国となり、ペイント領域に侵食されずに済んだ面もあります。しかし、それが逆に今の課題となっています。

事業再構築補助金に採択された事業

事業再構築補助金を活用したDX挑戦への道のり

コロナ禍が生んだ変革のチャンス

伊藤 デジタル時代の到来について、どのように考えましたか。

山口 デジタルの力は、商圏を超えることができ、データ分析によって誰が何をどう活用しているかを可視化できます。

山口 きっかけとなったのが事業再構築補助金でした。コロナ禍において、国は日本企業の新規事業実施率がわずか5%という現状に危機感を抱いていました。売上が落ちても既存事業に固執し、変化をためらう中小企業が多い中、強制的に変革を促すための施策でした。

伊藤 時代の転換点だったわけですね。

山口 目先の売上や業績最大化に集中する経営は、高度経済成長期には有効でした。しかし、広告費や将来投資を削減した結果、縮小均衡に陥る企業が増えています。

山口 重要なのは、将来価値を最大化するために、現在の資産をどこに配分し、どう価値を高めていくかというBS的思考です。将来の大きなキャッシュフローを生むための投資判断が必要です。この事業再構築補助金を活用して、業界DXにチャレンジすることを決めました。

伊藤 日本企業全体がガラパゴス化し、内向きになっている印象を受けます。デフレ30年、失われた30年と言われる中で、効率化や業務圧縮が正義とされ、チャレンジ精神や挑戦マインドが失われています。我々の世代は、意識的にアクションを起こす必要があります。

山口 事業再構築補助金の3分の2補助という仕組みは、投資のための大きな後押しとなりました。

前職での経験が生きた事業計画書作成

伊藤 事業計画書の作成はスムーズに進みましたか。

山口 実際に事業計画書を作成する段階では、比較的スムーズに進めることができました。前職のパーソル(旧インテリジェンス)での経験から、市場規模、競合分析、SWOT分析などのフレームワークを日常的に使っていたためです。

伊藤 なるほど。

山口 新卒時から役員の近くで仕事をし、経営者感覚を持てたことは幸運でした。パーソルキャリア社長の瀬野尾裕氏、BREXA Holdings山﨑高之氏、シェアフル大友潤氏、パーソルグループ長井利仁氏といった経営層が全員レポートラインだったため、経営の感覚を間近で学ぶことができました。

山口 経営会議、マネジメント会議、中期経営計画の合宿、業績レポーティングといったサイクルの中で、彼らが何に悩み、何を発信し、どうマネジメントするか、成功と失敗のパターンを学ぶ機会に恵まれました。

伊藤 それは貴重な経験ですね。

山口 インテリジェンスとEストアーの合弁会社設立プロジェクトも大きな経験でした。若手に経営を任せ、事業を創らせる文化があり、ボードメンバーの意向を捉えながら、市場分析、事業方向性、両社の目線合わせといった事業企画を担当しました。

山口 資本を入れてもらうためのアカウンタビリティの勘所、計画を描いて資金調達するためのポイントを経験できていたため、採択に向けて優位に進めることができました。

常に準備を怠らない経営姿勢

伊藤 コロナをきっかけに補助金が出て、慌てて準備する人が多い中、そうではなかったということですね。アメリカでは、コロナによってEC利用率が限界突破しましたが、それは水面下で準備していた企業が多数あったからです。日本は先進国の中でもEC利用率が低い状況にあります。

伊藤 補助金も同様で、行政書士に丸投げする企業もありますが、常に新しいことにアンテナを張り、準備されていたのではないでしょうか。

山口 ルーティン化や丸投げでは成功しません。なぜこれが起きているのか、事業構造は何か、戦略を考えるフレームワークを日常的に使っています。コンビニに入ったときも、新しいサービスを見たときも、自社事業への応用を息をするように考えています。これはインテリジェンス時代から叩き込まれた感覚です。

伊藤 補助金取得だけが目標ではなく、後工程や自社事業、国の方向性といった文脈を読み続けているということですね。

山口 補助金や助成金は、戦略の考え方からすれば、ミッション、ビジョン、バリューに基づく資金計画の一つに過ぎません。全体の中で一機能でしかないため、これを目的にすると本末転倒になります。

企業間のパートナーシップを重視する理由

地方企業のベンダー選定とパートナーシップ戦略

ユーザー中心のサービス設計とパートナー選定

伊藤 事業計画の方向性について教えてください。

山口 事業計画の方向性として、プロダクト起点やサプライヤー目線ではなく、ユーザー中心のサービスを目指しました。ARなどを活用し、壁紙を変えた後のイメージを事前に確認できる新しい体験の実現がコアでした。

山口 重要だったのは、サービス企画・設計から共に動き、競争できるパートナーとの伴走でした。しかし、地方の中小企業にはベンダー選定のリソースが十分ではありません。

伊藤 具体的にどんな課題があったのでしょうか。

山口 調査した多くの事業者は「アプリを作れます」「事業設計からアドバイスできます」と言うものの、中途半端でした。私たちが必要としていたのは、0から1、1から10のフェーズを担える真のパートナーでした。

山口 地方では、東京での実績をちらつかせながら価値提供をサボる事業者が多く見られます。ベンダー選定のノウハウがないため、多くの企業が食い物にされている状況があります。

コロナ禍がもたらしたボーダーレス化

伊藤 そうした中でどう対応されましたか。

山口 コロナ禍により、情報や知的サービスがボーダーレスになりました。数年前までは画期的だったZoomでのオンラインミーティングが当たり前となり、地方にいながら優良な事業者と付き合えるようになったことは大きな変化でした。このタイミングで、サンアスタリスクという最適なパートナーを選定できました。

伊藤 伴走型パートナーへのこだわりを感じます。アウトソースの限界が近年指摘されていますが、実感はありましたか。

山口 新規事業領域では、やるべきことが明確に決まっていません。むしろ自分で探しに行く必要があります。要件定義が明確で粛々と進められる既存事業とは異なり、週単位、月単位で状況が変化し、ピボットが必要になります。真の意味で伴走してくれることが重要でした。

伊藤 つまり「できます」という事業者は、最初の時点で不要だということですね。

山口 その通りです。地方は草刈り場のような状態になっています。見栄えだけのウェブサイトを提供する事業者が多く、価値提供をサボりすぎています。ボーダーレスになったことで、本当に価値ある事業者を選定できる環境が整いました。

誰とやるかが成功を左右する

伊藤 パートナー選定で他に意識された点はありますか。

山口 パートナー選定では、旧インテリジェンスのメンバーにも参画してもらいました。何をやるかも重要ですが、誰とやるかも同じく重要です。

山口 新規事業開発のノウハウや、内装業界だけでなく人材サービス的なアプローチを組み込む考え方が必要でした。彼らの存在は大きな支えとなっています。

伊藤 途中から参加させていただき驚いたのは、会議の質の高さです。新規事業では5年間メンバーが変わらずに続けられるかが重要と言われています。若手社員もしっかり参加されていますが、土壌形成についてどう考えていますか。

山口 最初の立ち上げメンバーがコアな文化を作ることが重要です。仕事の機会を通して人は成長すると考えています。新規事業は結果が不確実でリスクもありますが、新しい領域へのチャレンジは、社員にとって人生の肥やしになります。一緒に仕事をしてくれる社員に、そうした成長機会を提供することが私の使命だと考えています。

時代の流れははやい、MVP開発とアジャイルが重要

MVP開発とアジャイル手法による新規事業の実践

サンアスタリスクとの協働プロジェクト

伊藤 実際のプロジェクトの進め方を教えてください。

山口 サンアスタリスクとのプロジェクトでは、「どうすれば壁紙の魅力を伝え、デジタルを通じてリアルな場以上の体験で購入できるのか」というデザインチャレンジに取り組みました。

山口 まず課題理解のため、UXデザイナーのファシリテーションでユーザーリサーチとペルソナ設計を実施し、様々なサンプルでインタビューを重ねました。

伊藤 どなたかキーパーソンはいましたか。

山口 シリコンバレー発祥のデザインコンサルティング経験を持つマーク氏との協働は、インタビュー手法や新規事業へのフレームワーク活用において、大きな学びとなりました。

インタビューを繰り返す中で、ペルソナごとのインサイト(購入のツボ)を発見し、どこにアプローチするかを見極めました。解決策の検証として、How Might Weやブレインストーミング、アイデア演習を実施。プロトタイピングで概形を作り、MVP(実用最小限の製品)開発へ進みました。

伊藤 なるほど。

山口 Figmaでプロトタイプを作成し、顧客フィードバックを得ながら改善を繰り返し、価値を高めていきました。本開発はサンアスタリスクのベトナム拠点で実装してもらいました。

ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーの三位一体

伊藤 このプロジェクトで重要だったポイントは何でしょうか。

山口 新規事業において重要だと感じたのは、ビジネス、クリエイティブ、テクノロジーという三つの視点です。

山口 クリエイティブ面では、UI/UXデザイナーが短期間でスプリントを回してくれました。ビジネス面では、TAM、SAM、SOMといった市場分析を通じて、総市場規模、到達可能市場、獲得可能市場を俯瞰的に把握しました。

伊藤 テクノロジー面はいかがでしたか。

山口 今やIT大国となったベトナムのトップクラスの実力を持つサンアスタリスクの優秀なエンジニアが、高速で実装を進めてくれました。

山口 限られた予算の中で、これらを一社で実装できたことが素晴らしい点でした。単なるアプリ開発会社ではなく、事業を創るパートナーとして現在も伴走してもらっています。三つのバランスを保ちながら事業展開を進めることが重要です。

MVP開発と調査・検証への適切な投資配分

伊藤 予算があると機能を盛り込みたくなりますが、MVPにこだわった点が印象的です。一方、中小企業の課題として、調査と検証には多額の費用がかかります。MVPを明確にし、調査と検証、モニタリングやインタビューにしっかり予算を使われた印象です。

伊藤 また、初期にマーク氏が介入したメリットが大きく、その文化が今も継承されているように感じます。新規事業の失敗パターンとして、社内ベストメンバーだけで組むことが最悪と言われています。しっかりした経験者を初期に入れるという、補助金の予算配分が適切になされていました。

山口 文化は大きく継承されています。いつか再び一緒に仕事をしたいと思うほどです。インタビューを丁寧に行い、ユーザーのインサイトを探り、作っては壊すプロセスを繰り返す。ユーザー中心という言葉だけでなく、本質を考える思考力のスピードが圧倒的でした。

伊藤 文化の継承というのは重要ですね。

山口 「シンクハード」というキーワードが示すように、この文化をもっと根付かせる必要があります。新規事業を始めるとき、社内の優秀な人だけを集めるのではなく、外部内部の垣根を取り払うことが重要です。サンアスタリスクからも指摘されましたが、誰をアサインするかには細心の注意を払っています。

山口 タイミング的に参加できなかった社員もいるため、徐々に巻き込みながら成長機会を提供し、シンクハードの文化を浸透させていきたいと考えています。

PMF達成に向けたグロース戦略

伊藤 今後の展開についてお聞かせください。

山口 新規事業は1年、3年、5年のスパンで考えるべきで、まだスピードが十分ではなく、社内のケーパビリティを強化する必要があります。

山口 ただし前進していることは確かで、第1章が終わった感覚です。広告に頼らずウェブ成長を実現し、社内メンバーの成長も見られます。デジタル領域で何もやってこなかった地方の問屋が、ここまで持ってこられたのは成果です。実際にアクティブユーザー数もある程度の規模を獲得できています。

伊藤 第2章はどのような展開を考えていますか。

山口 第2章はグロース時期です。PMF(プロダクトマーケットフィット)、つまり私たちのサービスが顧客ニーズにしっかり合致している状態まで到達する必要があります。ブレイクするまでには、まだ時間がかかると認識しています。

アジャイル開発を継続する重要性

伊藤 開発手法についてはどうお考えですか。

山口 新規事業はアジャイル開発の議論に似ています。アジャイルは短期間のサイクルで開発とテストを繰り返し、変化に柔軟に対応します。要件が不明確な市場向けプロジェクトに適しています。

山口 一方、ウォーターフォールは要件が明確で計画通りに進められるプロジェクト向きです。新規事業領域は明らかにアジャイルで進めるべきであり、そのスピード感をさらに上げることが課題です。

伊藤 過去の経験からも学びがあったのでは。

山口 アジャイルは継続的に実践すべきものです。Eストアーとの合弁会社ECパートナーズでも、スタート時は大きく失敗していました。毎週提案書を書き直し、ユーザーインタビューを重ね、解像度を上げて検証を繰り返していました。

山口 事業開始から1年ほど経って、事業の状況を冷静に整理したミーティングがありました。今でもそのホワイトボードを覚えていますが、そこでブレイクスルーを発見し、サービス企画をやり直して成功につながりました。

伊藤 その経験が今に活きているわけですね。

山口 この経験から、ユーザーの声を聞き、検証を繰り返すことが重要だと確信しています。いつかブレイクスルーすると信じています。

山口 新規事業に直線的な成長はありません。正解が分かっていれば誰もが取り組んでいます。どこかでブレイクスルーするという感覚を持ちながら、安心してアジャイル開発を続けることが大切です。事業家として結果が求められる時期に入っており、しっかり事業をグロースさせていきます。

持続可能な事業運営のバランス感覚

伊藤 経営には「一つに絞るためにすべてを試す」という言葉があります。多くの人がやり切らず、結果としてブレイクスルーしません。一方で、新規事業は赤字を垂れ流すリスクもあります。成功率10%以下と言われる中で、信じて継続するための成功体験として、ECパートナーズがあったということですね。

山口 新規事業は最初は赤字です。最初から黒字なら誰もがやっているはずです。重要なのは、累積損失を計算し、デッドラインを把握しておくことです。

山口 持続可能なパイプラインをしっかり持っているかが重要です。ボランティアのように続けるのではなく、コスト感覚と、いつまでにどういう結果を出すのかを明確にする。新規事業継続のための決裁や、社内外関係者との調整は常に意識しています。

伊藤 BS的な考え方ですね。

山口 将来のキャッシュフロー最大化に着目し、投資回収のタイミングを常に考えながら動いています。

伊藤 老舗和菓子屋の話のように、「いつも変わらない味」の裏側では、原材料、調理法、機材、人材すべてが変化しています。折れずに愚直に変化を続けている印象を受けます。

山口 結果が出るまでは厳しい状況ですが、それが新規事業です。誰も正解を知らない中、顧客に向き合い、顧客の課題にどう答えるかに集中するだけです。様々な情報が入ってくる中でブレないことが重要です。

内装業界を変え顧客満足度を上げる

地方中小企業DXの未来と業界変革への展望

組織成長に必要な人材戦略

伊藤 組織成長の観点で、今後どういった人材が必要ですか。

山口 既存メンバーの成長はもちろんですが、新しい視点を持った人材も必要です。特にマーケティングやデータ分析の専門性を持った人材をどう巻き込むかを考えています。

山口 ただし、必ずしも採用だけでなく、外部パートナーとしてどう巻き込むかも選択肢です。

伊藤 地方中小企業がDXを推進する上で、特に難しいと感じたことは何ですか。

山口 最も大きいのは人材の問題です。デジタル領域に精通した人材が地方には少ない。ただし、コロナを経てリモートワークが当たり前になり、そのハードルは下がりました。

山口 もう一つは社内の理解を得ることです。新しいことへの抵抗感がある中で、小さくても成果を出し、「こういうことができる」と示すことが重要です。

デジタル化の本質とは何か

伊藤 DXの本質について、改めてお聞かせください。

山口 DXは単にシステムを入れることではなく、顧客体験 をどう変えるか、ビジネスモデルをどう変えるかという本質に向き合うことです。この点を見失わないよう常に意識しています。

伊藤 取り組みが業界全体に与える影響をどう考えていますか。

山口 まだ小さな取り組みですが、地方の問屋がこうした挑戦をしていることが、他事業者の事例になればと思っています。

山口 業界全体が変わるには、どこかが先陣を切る必要があります。それが私たちの役割だと考えています。成功すれば業界のスタンダードになる可能性があり、失敗しても次の人たちの糧になればと思います。

失敗を恐れない文化の源泉

伊藤 失敗を恐れないマインドは、どこから来ているのでしょうか。

山口 前職のインテリジェンスでの経験が大きいです。チャレンジを推奨する文化があり、「失敗してもいいから、とにかくやってみろ」が当たり前の環境でした。そこで培われたマインドセットが今も残っています。

伊藤 他に影響を受けた方はいますか。

山口 朝倉祐介氏の考え方に影響を受けています。将来価値を最大化するために今何をすべきか。目先の売上や利益だけでなく、5年後、10年後の姿から逆算して考えることを常に意識しています。

山口 若手社員にこうした経験をさせたいという思いも強くあります。新規事業は学びが多く、失敗も含めて経験が財産になります。そうした機会を作るのが経営者の責任だと考えています。

事業の社会的意義とユーザー体験の変革

伊藤 この事業の社会的意義をどう捉えていますか。

山口 ユーザーや施主の方々が、もっと壁紙を楽しめる、壁紙を選ぶ体験を豊かにできることが最大の社会的意義です。

山口 今までは供給側の都合で決まっていた部分が大きかったものを、ユーザー中心に変えていく。ユーザーが本当に欲しいもの、本当に欲しい体験を提供することが、業界全体の価値向上につながると考えています。

伊藤 デジタルならではの体験もありますね。

山口 デジタルの力を使うことで、リアルでは実現できなかった体験を提供できます。例えばARを使い、実際に壁紙を貼った後のイメージを事前に確認できれば、ユーザーの意思決定がしやすくなり、失敗も減り、満足度も上がります。

今後の展望:プラットフォーム化への道

伊藤 今後の展望を聞かせてください。

山口 直近の目標は、第2章としてPMFをしっかり達成することです。その後、スケールするフェーズに入ります。

山口 長期的には、この仕組みを壁紙だけでなく、床材、カーテン、照明など他のインテリア商材にも展開したいと考えています。トータルでインテリア体験を提供できるプラットフォームになることが、5年後、10年後の目標です。

伊藤 業界への想いをお聞かせください。

山口 業界全体を変えていきたいという想いは強くあります。地方の問屋の取り組みが業界全体のスタンダードになる未来を創りたい。そのためには他事業者との協力も必要で、業界全体で取り組む必要があります。この取り組みがきっかけになればと思います。

データ蓄積とインハウス化の重要性

伊藤 DXにおけるデータ蓄積と商圏突破について触れられましたが、住宅業界ではデータ収集・蓄積が困難と言われています。何か施策をお考えですか。

山口 住宅業界がアナログな広告手法に留まっているだけだと考えています。多くの住宅メーカーや建材メーカーで、ウェブ分析やウェブマーケティング機能を内製している会社は少ないのではないでしょうか。多くが外部委託しているため、社内に情報が蓄積されていません。

伊藤 やっていないだけで、データを貯める方法は他にもあるということですね。

山口 外部委託の結果、社内に何も情報が残っていないのです。ウェブマーケティング担当者が専門家ではなく、外注会社とのカウンターでしかない。経営レポートすべきポイントであるにもかかわらず、経営者も広告費用と来店数の関係という表面的な理解に留まっています。

山口 本来は、営業組織と企画部門としてのウェブマーケティングをもっと融合し、内製化すべきです。そうした取り組みをしている企業は少ないと感じています。

問屋業の新たな価値創造

伊藤 問屋業界について伺います。問屋の機能として、デリバリー、決済、データ蓄積の三つがあると考えています。しかし、IT化が進んだ結果、多くの業界で問屋の価値が失われています。また、最も 高齢化 が進んでいるのも問屋業です。問屋業界としてDXをどう捉えていますか。

山口 ユーザー中心の視点とは別に、建設DX全体の観点から考えると、問屋の三機能のうち「データ」が、個人のアナログ情報として蓄積されています。これをどうオープンにしていくかが重要です。AIの力で十分に対応可能だと考えています。

伊藤 なるほど。

山口 問屋業が衰退と言われながらも、弊社がまだ事業を続けられているのは、デリバリーや決済の最適化もありますが、特にデータ機能が大きいと感じています。現在は個人の頭やノートの中にあるアナログデータが、すさまじいロジックで機能しています。これをAIでさらに活用すれば、問屋という枠組みではなく、新時代の問屋業を描けるのではないでしょうか。

商品寿命短縮化時代の新規事業戦略

伊藤 最後の質問です。デジタル化が進んだ結果、商品やサービスの寿命が短くなっています。以前は20年だったものが、今は4〜5年と言われています。一方で、離陸するまでの準備期間が長いほど、生き残る確率が高いというデータもあります。この矛盾する二つのデータに対して、この新規事業をどう推進していますか。

山口 難しい問題ですが、常に新しい発想を持ち、リリースまでのプロセスを簡素化していくことが重要だと考えています。AIの力で、ウェブやアプリの実装が可能になり、「これが面白い」「顧客が喜ぶかも」という発想とツールを掛け合わせることで、事業が加速します。

伊藤 現場レベルでの変化もありそうですね。

山口 新規事業を作り込むスパンはどんどん短くなり、現場単位に落ちてくると考えています。従来のように新規事業開発室を作って数人で進めるのではなく、営業組織など誰でもできる状態になるでしょう。

山口 差別化のポイントは、社会的課題を深く捉える力や、面白いと思う感性になります。

伊藤 壁紙市場についてはいかがですか。

山口 もう一点、壁紙について考えると、新築で家を建てたら一生物という発想が日本市場では一般的です。しかし、これが5年で変えられるプロダクトやサービスとして認識されれば、大きくブレイクする可能性があります。

山口 30年以上変わらなかった業界において、ユーザーが4〜5年の周期で商品を変えることに慣れているなら、容易に転換できるのではないでしょうか。第2章では、このあたりを検討していきたいと考えています。

インハウス化による競争優位性の構築

伊藤 冒頭の話と繋がってきました。商品サービスの寿命が短くなっている最大の原因は、競合他社による模倣です。従来、デジタル施策はアウトソース型で壁があり、回転スピードが遅かったのです。インハウス型にこだわることで、スピードが上がり、 AI活用 も進み、独自性が深まる仕組みができたと感じました。模倣されても負けない力があれば問題ありません。

山口 社内のインフラ、つまり一緒に事業を創る仲間が競争優位性です。

山口 例えば、特定のAIを使った事例を見たとき、従来なら指示書を作って社員に依頼し、確認するプロセスでした。しかし今、新規事業メンバーは、何も指示していないのに「こんなものを作ってみました」とアウトプットを持ってきます。

伊藤 まさにアジャイルですね。

山口 試してみて、みんなに見てもらい、修正し、顧客に見せて、また修正する。このプロセスが回っていることが、今後さらに加速していくと考えています。

NPOでの展開と業界全体への貢献

伊藤 このプロジェクトがNPO内で将来的にどう関わっていくか、どんなことを考えていますか。

山口 Facebookが内輪から始まったように、内輪で熱狂してもらうことが重要です。「こんなのがあったらいい」「こんな機能があったらいい」という声の熱量を聞ける場だと考えています。

山口 当NPO(住環境工事研究会)のメンバーと一緒に作っていきたいと思っています。このNPOが、ウェブや現場も含めて、日本全体を支えるインフラになっていくべきであり、そうならないといけないと考えています。

伊藤 直接部門はローカルビジネスなので協力体制が取りにくいですが、デジタル領域なら協力体制が取れ、より良いプロダクトができると思います。

山口 頑張ります。

伊藤 本日は貴重なお話をありがとうございました。

編集後記

本インタビューで印象的だったのは、DXを単なるIT化ではなく「業界構造そのものの変革」と捉える山口氏の視座の高さです。前職での経営経験、適切なパートナー選定、そしてユーザー中心の開発プロセス――成功の背景には、常に準備を怠らず、本質を見極める姿勢がありました。「失敗しても次の人の糧になる」という言葉に、業界全体への責任感が滲みます。地方中小企業のDX推進において、本事例が示唆するものは大きいでしょう。(伊藤)

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




内装職人が語る現場管理の本質―持続可能な建設現場を作る知恵と工夫

小池理事 山口理事のサスティナブルな現場に対する考察

内装職人が教える現場管理の極意―監督と職人が共に作る持続可能な建設現場

建築現場を数多く見てきた中で、ひとつの確信がある。「回っている現場」と「回っていない現場」の差は、最新の工法や設備ではなく、現場に関わる人々の細やかな配慮で決まるということだ。
NPOの活動を通じて、内装クロス職人の小池氏と対話を重ねる中で、私は改めて気づかされた。持続可能な建築現場とは、監督と職人が互いの立場を理解し、共に知恵を出し合うことから始まるのだということを。

Table of Contents


プロフィール Profiles

語り手

聞き手

回る現場とは何か?

「現場が回る」とは何か―職人が見る理想の現場管理

「工期よりも早く進めるのがやはりよく回っていると思いますね」と小池氏は語った。現場が回るという表現は、建築業界では日常的に使われる言葉だが、その意味するところは深い。単に作業が進むということではなく、全ての工程が滞りなく、まるで歯車が噛み合うように動いている状態を指す。

では、回っていない現場とはどんな状態なのか。小池氏によれば、その特徴は明確だという。「とにかく現場の中に人が多い。これは戦場だって思いますね」。大工から内装屋まで、様々な職人が同時に入り乱れている状態。これは工程管理が十分に機能していない証拠だと小池氏は言う。

現場を回す状態を作るために、小池氏自身はどんなことを意識しているのか。その答えはシンプルだった。「職人は自分の作業のみで来るので、例えばここに 養生 をするとか、この邪魔なものを片付けておくとか、作業スペースを作っておくという監督的なところをしっかりしておくと、それだけでだいぶ変わってきます」。

重たい材料を作業場所まで運んでおく、ゴミを片付けておく、掃除をしておく。こうした一見些細に思える準備作業が、現場の効率を劇的に変える。これは誰かから教わったものではなく、様々な現場を経験する中で身につけた感覚だと小池氏は言う。「その前後の作業のことを考えれば誰でも分かることというか、感覚的なものに近い」。

同じ現場でも、進み方に大きな差が生まれることがある。その差を生むものは何か。スキルの差はもちろんあるが、小池氏は「やる気ですかね」と答えた。現場に向き合う気持ち、姿勢が現場の進み具合を大きく左右する。職人は本当に人それぞれ違う。だからこそ、その人が現場にどう向き合うかで、全てが変わってくるのだ。

【現場準備で意識すべきポイント】

□ 職人が入る前日までに作業エリアの清掃完了

□ 養生が必要な箇所は事前に施工

□ 材料搬入経路の障害物を除去

□ 重量物は作業位置から3m以内に配置

□ 前工程の残材・ゴミを撤去

□ 照明・電源の確保を確認

立ち上がりの段階では特に重要なことがある。「一つ一つ終わらせる」。小池氏はこれが正攻法だと表現した。一日一日、やるべきことを確実に終えていく。十日間の工程であれば、ここまでに立てを終わらせなければいけない。そこから張り始めて何日間か。一日ずれると全部が崩れてしまう。だから「今日はここまでやる」と決めて、必ずやりきる。

たとえ三時に予定の作業が終わっても、キリの良いところまでは進める。「中途半端が一番良くない」。逆に七時までかかっても、その日の目標は必ず達成して帰る。この積み重ねが、回る現場を作る基礎となる。

内装工事は建築工程の最後に位置する。だからこそ、前工程の影響を受けやすい。「一番比重が、一番壁面の一件の家だったらほぼほぼ全部が関わっていると思うんで」と小池氏は言う。その難しさを乗り越える鍵は「仲間集め」だった。一旦工期に詰められたら、手を入れるしかない。だから信頼できる仲間を集められることが重要なのだ。

過去には厳しい状況もあったという。「前段階の工事が進んでいないから、内装の部分でこの日に入るものがなくなった。二週間空く。でも工期は変わらない」。そんな時、小池氏はどうしたのか。「事前に仲間を集めて五百平米をパテからやって三日で仕上げ。そんなことばかりやっていた」。

毎日現場に十人いて、百平米を一日でパテが終わって、次の日が仕上げで三日で終わる。「ありがとうございました、工期間に合いました」。こうした対応ができるのは、日頃から信頼関係を築いているからだと小池氏は言う。

山口剛

Point of View

小池氏の話を聞きながら、私は業界の変遷に思いを馳せていた。
2008年のリーマンショック。あの時、建設投資が急減し、多くの企業が人員削減を余儀なくされた。現場を支えてきたベテラン監督の多くが現場を離れ、長年培われてきた現場管理の知識や技術が、十分に継承されないまま失われていった。
小池氏が「感覚的なもの」と表現した現場管理の技術は、本来であれば先輩から後輩へ、現場で背中を見せながら伝えられてきたものだ。どのタイミングで職人に声をかけるべきか。材料をどう配置すれば動線が確保できるか。こうした暗黙知は、マニュアル化が難しい。
現在、多くの若手監督が経験を積む機会を十分に得られないまま、現場を任されている。それは彼らの責任ではない。業界全体として、知識を継承する仕組みが弱くなってしまったのだ。
小池氏のような経験豊富な職人の知恵を、今のうちに言語化し、共有し、次世代に伝えていく。それが私たちNPOの役割であり、業界全体で取り組むべき課題なのだと、改めて感じている。

現場力は人間力、細かな配慮が求められる

職人とのコミュニケーション―お茶の時間に隠された知恵

現場でのコミュニケーションはどのように取られているのか。小池氏の答えは意外なものだった。「お茶ですね」。お茶の時間、それは単なる休憩ではない。「要は一旦区切って現場をどういう風に進めるかっていう作戦の時間なので、お茶の時間って実は」と小池氏は語った。

しかし最近は、その大切な時間が変わりつつあるという。「ほら、みんなスマホでゲームしたりしているじゃないですか」。お茶を持って携帯を持ってひとりで過ごす。コミュニケーションの機会が減っているのだと小池氏は言う。

本来、お茶の時間は何のためにあるのか。お茶とタバコを携え、雑談まじりに次の工程を確認する。この何気ない時間が、実は現場を円滑に回す重要な役割を果たしていたのだ。

情報収集の方法も独特だった。現場の進捗を把握するとき、小池氏は前工程の職人に直接電話をすることがあるという。「監督に電話しても”大丈夫ですよ”としか言わないので」。代わりに前業者に電話をする。大工に電話する、塗装屋に電話する。「そっちの方が情報が正しい」のだという。

これは監督を批判しているわけではない。むしろ、現場の情報は様々なルートから集めることが大切だという教訓だ。縦の報告ラインだけでなく、横のつながり、職人同士のネットワークも活用する。そうすることで、より正確な現場の状況が把握できる。

段取りの重要性について、小池氏は繰り返し強調した。「人の手配、材料の手配、あとやらなきゃいけないこと。あれがないこれがないって言ったら、一日作業ができないので」。段取りさえできれば、作業は行ってやるだけになる。そして段取りの基本は図面を読むことだ。「事前の図面を見るというのが一番大事」だと小池氏は言う。

図面を読み込む際に小池氏が注意しているのは「納まり」だった。取り合いのところ、出隅で色分けをする部分、どういう納め方を考えているか。こうした細かな納まりの部分を事前に考えておくと、作業がスムーズに進む。先読みができない人は、手元のことしか考えられない。段取りの差は、そこに現れるのだという。

仲間への伝え方にも工夫があった。「分かりやすく」。ただそれだけではない。小池氏はゾーンごとに職人を配分する。「そこの部分の納まりだけを考えて仕上げてもらう」。全体をみんなに説明すると、複雑な部分が後回しにされることがある。「担当制にしないと、俺じゃないやって思って聞いているんですね」。役割分担を明確にする。それが確実に仕事を進める秘訣だった。

【効果的な指示の出し方】

  • ゾーンごとに担当を明確化
  • 「誰が・どこを・いつまでに」を具体的に伝える
  • 複雑な納まりは個別に説明
  • 作業完了の報告ルールを統一

狭い空間での作業は、時にトラブルを生む。昔はよく職人同士の衝突が多かったという。「お互い先にやらせろとか、お前誰やねんとか、俺はもう帰る、こんな現場できるわけねえだろみたいな」。大きい現場になると、全く知らない業者が入ってくる。一緒に仕事したことのない人が同じ狭いところで作業すれば、調整が必要になる。

しかし今は、コミュニケーションが取れる職人が増えてきて、そういった状況は減っているという。「コミュニケーションを取っている各業者たちだったら、今は全然そんなことないんで」。

情報共有の手段も時代とともに変わってきた。昔は壊してしまったとか傷つけてしまったという報告は電話だった。今は写真を撮ってすぐLINEで送れる。「ただ一番困るのは、黙りして報告がないのが一番困ります」と小池氏は言った。何か問題があった時、早めに報告してもらえれば対応できる。だから必ず報告するという文化を作ることが大切なのだという。

工事の流れや現場の予定に関しては、いまだにホワイトボードを使っているという。「それが一番何か一ヶ月の流れが分かり合っているんで」。ホワイトボードに書いて、写真をバシッと撮って職人たちに送る。そうすると職人たちも理解してくれる。最新のツールだけが答えではない。現場に合った方法を選ぶ柔軟さが大切なのだ。

【情報共有の工夫】

  • 月次工程:ホワイトボード写真をLINEで共有
  • 日次報告:写真付きLINE
  • トラブル報告:早めの連絡を徹底
  • 図面確認:事前に気になる箇所を共有
山口剛

Point of View

お茶の時間が作戦会議だという小池氏の言葉は、現場の本質を表していると感じた。
形式的な朝礼や会議ではなく、自然な会話の中で情報を交換し、次の動きを確認する。顔を見て話し、お互いの状況を理解する。そんな当たり前のコミュニケーションが、実は現場を支えている。
しかし近年、こうした暗黙のコミュニケーション文化が失われつつあることも事実だ。スマートフォンの普及、働き方の変化、世代間のコミュニケーションスタイルの違い。様々な要因が重なり、かつて当たり前だった「お茶の時間の作戦会議」が機能しにくくなっている。
これは単なる懐古主義ではない。現場でのコミュニケーション不足は、情報の断絶を生み、手戻りやトラブルの増加につながる。デジタルツールは便利だが、それだけでは職人同士の信頼関係は生まれない。
では、どうすればいいのか。新しいツールを活用しながらも、対面でのコミュニケーションの価値を見直す。若手にその重要性を伝え、実践する機会を作る。業界全体で、こうした「現場の知恵」を継承していく仕組みが必要なのだと感じている。

管理者として現場に求められるもの

優秀な監督と持続可能な現場―共に学び、共に成長する

NPO法人での活動を通じて、小池氏の視野は大きく変わった。「一職人、一コーディネーターみたいなものじゃなくて、会社として組織として動くことを考える、経営者っぽくなったよね」と小池氏は振り返る。まわりの職人からも「会社にしちゃおうと思うんですけど」という相談をされることが多くなった。NPOでの学びは、確実に現場の見方を変え、職人仲間への視線も変えていった。

では、これから未来に向けて現場はどうあるべきなのか。小池氏の答えは明快だった。「儲かる業界にしたいですよね」。内装屋はみんな儲からないと言う。「クロス屋は”苦労する屋”だから」、工期の遅れの皺寄せ、補修費の問題等々。そういった課題を一つずつ改善していきたい。「建築業で一番儲かるのが、内装屋でいいんじゃないかなと思ってます」という小池氏の言葉には、強い信念が込められていた。

そのためには何が必要なのか。「職人一人一人が変わっていかないと難しいかもしれないですけどね、考え方とか」とも小池氏は語った。業界全体の変革は、一人一人の意識から始まる。それは容易なことではないが、不可能でもない。

社会保険の問題について、小池氏は率直に語ってくれた。会社にしても、従業員がいない「一人株式会社」という職人は少なくない。個人事業主から会社にしたが、社会保険を払っていない。「やはり高いから払えないっていう単純な意見」だと小池氏は言う。

しかし視点を変えれば見え方も変わる。「今後人を受け入れて、例えば従業員を増やしていきたいと思ったときに、やはりそういったものがないと人も入ってこないし入れられない」。今は年齢的にも働けるが、今後働けなくなった場合はどうするのか。将来を見据えた経営が必要なのだ。

「従業員に払えるような仕事のやり方だったりとか、請求書の出し方だったりとか、元請けとの話の仕方だったりとかっていうのを改善した方がいい」と小池氏は職人たちに話すという。年金も同じだ。支払いに問題がある職人はいる。しかし周りにいる職人たちは払っている。労災、保険、税金。「税務署からの調査で大きなトラブルの話題も、最近はあまり聞かなくなりましたね」みんなちゃんとやる努力をしている。各職人、各企業が少しずつ変わってきているのだ。

施工単価の問題も重要だ。コンプライアンスを遵守した適正価格で仕事を受ける。それは当然の権利であり、責任でもある。「いつか貼れなくなる、いつか仕事ができなくなるっていうことが、職人の世界ってある」。持続可能な現場運営をしていくためには、適正な対価を得ることが不可欠なのだ。

優秀な監督の話も印象的だった。ある店舗内装の監督は、店舗なのに残業をさせない、みんな五時に帰る、それでもすごく難しい仕事をこなす。「それって現場の組み立て方が上手。監督が優秀だと思います」と小池氏は語った。

その監督の何が優秀なのか。「物を知っている。百パーセントではなくても、七割方の手順を業種ごとに覚えておけばいい。それができる監督は、段取りもうまくいく」。職人の使う材料や下塗りの種類まで完璧に知る必要はない。しかし、各工程の流れと所要時間は把握している。それができる監督は、現場をスムーズに回せるのだという。

「お茶の時間に監督がみんなの前で采配ができる」。一日中現場に張り付いていなくても、要所要所で的確な指示を出す。「〇〇さん、午後からここお願いします」「▲▲さん、こっちが終わったらあっち行ってください」。この采配力が、現場を円滑に回す。

そういう監督のもとでは、工期も遅れず、みんな早く帰れる。そして職人は「またこの監督の現場で働きたい」と思う。これが優秀な協力業者を確保する方法なのだ。

現場の清掃、道具の整理、ゴミの分別。こうした一つ一つの行動に、その人の姿勢が表れる。「お客の建物をそもそも作っているっていうことを考えてやってくれる人と、やってくれない人がいます」と小池氏は言った。

こうすればお客が喜ぶよねと考えてやってくれる職人は、車も綺麗、現場も綺麗、道具も綺麗に揃えている。この業界は人のウェイトがすごく大きい。だからこそ、信頼できる仲間と長く仕事をしていくことが大切なのだという。

難しい現場をやって仕上がったときは嬉しいと思う。頼られているなという気がする。平準的に進んだトントン拍子の現場より、ちょっとしたトラブルをいかにみんなで修正していけたかというところが、いい現場だったという定義になる。そこにはチームとしての一体感がある。職人と監督が協力し合っている状態。それこそが、持続可能な現場の姿なのだろう。

【優秀な現場管理のポイント】

  • 各工程の流れと所要時間を7割把握
  • 要所での的確な指示と采配
  • 事前の段取りで残業を減らす
  • 職人との信頼関係構築
  • お客様視点を常に意識
山口剛

Point of View

小池氏との対話を通じて、私は建設業界が直面している課題の本質を改めて考えさせられた。
近年、建設業界は大きな変化を経験してきた。人員削減、世代交代、働き方の変化。その過程で、長年培われてきた現場管理の知識や技術の一部が、十分に継承されないまま失われてしまった。
小池氏が「感覚的なもの」と表現した現場管理の技術、「お茶の時間の作戦会議」というコミュニケーション文化、「七割の知識で現場を回す」という監督の技量。これらは全て、本来であれば先輩から後輩へ、現場で背中を見せながら伝えられてきたものだ。
しかし今、多くの若手監督が十分な育成機会を得られないまま、現場を任されている。それは彼らの責任ではない。業界全体として、知識を継承する仕組みが弱くなってしまったのだ。
同時に、社会保険、適正価格、労働環境といった課題も山積している。これらは個々の企業努力だけでは解決できない、業界構造に関わる問題だ。
しかし、悲観する必要はない。小池氏の言葉にあったように、「みんなちゃんとやる努力をしている」。少しずつではあるが、業界は確実に変わり始めている。
私たちNPOの役割は、この変化を加速させることだ。ベテランの知恵を言語化し、若手に伝える。監督と職人が対話する場を作る。業界全体で課題を共有し、共に解決策を考える。
住宅建築のサスティナビリティは、最新技術や環境配慮だけでは実現しない。現場への配慮、職人への敬意、適正な対価。そうした当たり前のことを当たり前に実現できる業界にしていく。それが私たちの使命なのだと、改めて思う。

編集後記

現場で日々奮闘されている監督の皆様、そして職人の皆様へ。

小池氏の言葉の中に、きっとご自身の経験と重なる部分があったのではないでしょうか。段取りの工夫、コミュニケーションの大切さ、そして業界の課題。

この記事は、誰かを批判するために書いたものではありません。むしろ、監督と職人が互いの立場を理解し、共に学び、共により良い現場を作っていくためのヒントを共有したいと考えました。

建設業界が直面している課題は、一朝一夕には解決できません。しかし、一人一人が少しずつ改善に取り組み、知恵を共有し、次世代に継承していく。その積み重ねが、必ず持続可能な業界を作ります。

明日の現場も、あなたの配慮から良い一日が始まることを信じています。共に、より良い未来を築いていきましょう。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




[視察] 内装業の単価アップを実現する高級建材「サンフット」|北三の品質とこだわりに学ぶ差別化戦略

北三視察の様子

高級内装材「サンフット」で内装業の未来を拓く|北三が示す品質と職人の誇り

内装業界が直面する 低単価、 高齢化 、 人材不足 という長年の課題。これらを乗り越え、持続可能な成長を実現するためには、私たち自身が新たな価値を見出し、事業構造を変革していく必要があります。この切実な思いを胸に、内装業界NPOの理事として、先日、私たちはある重要な視察と体験を行いました。
今回の視察で焦点を当てたのは、北三株式会社が手掛ける高級内装材**「サンフット」**です。創業101年を迎える老舗企業が、いかにして現代のニーズに応え、高品質な天然木材を提供し続けているのか。そして、この「サンフット」が、私たちの業界が抱える課題に対し、どのような解決策をもたらし得るのか――。本稿では、私、ミライズ山口の視点から、その視察の様子と、そこで得られた示唆について、深く掘り下げていきたいと思います。視察中の会話から見えてきた、内装業界の未来を拓くヒントが、ここにあります。

こだわりを形にする内装材サンフット

高級内装材サンフットと高品質な北三のこだわり

内装業界が抱える低単価、高齢化、人材不足といった課題に対し、高級商材の導入は単価アップとブランド価値向上を実現する有効な解決策となり得ます。その選択肢の一つとして注目されるのが、北三株式会社が手掛けるサンフットシートです。

北三は1924年創業、今年で101年を迎える老舗企業であり、その歴史は下駄の表面材に薄く削った木材を貼り合わせたことから始まりました。その後、大型スライサーの開発により、家具や内装材、楽器など多様な分野で使われる 突板(つきいた)の製造を本格化。同社の小林氏は、「1960年代になりまして、ええ、そこからうちの会社の方で二次加工… 不燃認定 が取れているサンフットシート、それから不燃パネル、そういったものを作るようになり。内装材の方にも着手するようになり、今に至るようになりました」と語るように、時代のニーズに応じた製品開発を進めてきました。

サンフットシートの大きな特徴は、その品質への徹底したこだわりです。突板は「0.2mmから0.3mmの間」という極薄の木材をスライスして作られ、その製造工程では、厳選された丸太の選材から始まり、煮込み、裁断、乾燥といった熟練の技術と手間を要する工程を経て製品化されます。木本氏が「中国の突き板シートを触ったんですけど、めちゃくちゃ臭くて…なんかそういう粗悪品なものっていうのはイメージがあったんですけど」と指摘するように、海外製品の中には品質に課題があるものも存在する一方で、北三は「本物を使っております」と小林氏が断言するほど、天然木の素材そのものの良さを追求しています。

また、サンフットシートは「不燃の認定をとっているのがウレタン塗装で、一応とっておりますね」と小林氏が述べるように、機能性にも優れています。天然木ならではの風合いと、長年の経験に裏打ちされた高い品質は、まさに高級商材としての価値を確立しています。日本国内で突板の製造から二次加工までを一貫して行う企業は北三のみであり、この一貫生産体制が高品質を支える大きな要因となっています。

山口剛

Point of View

品質へのこだわりが、最終的に職人の誇りを守ることに繋がります。大量生産ではなく、丁寧なモノづくりが評価される時代にこそ、私たちが価値を見出し直すべきだと感じました。

こだわり素材が無い商業界をリードする

市場が求める自然素材と設計士のこだわり

現代の建築・内装市場では、 自然素材 への回帰が顕著です。特に、その中でも設計士から絶大な支持を集めているのが、ホワイトオークやウォールナットといった木材の素材感です。北三の小林氏も、「基本的にオーク、ウォールナット材。その二大種がメインで生産作ります」と述べており、これらの木材が市場の主流を占めていることがわかります。

海外からの買い付けが中心となる一方で、日本の木材については、小林氏が「どうしても枝の少ない台で、太い台からこう皆さん伐採していって、そちらから使っていったものなので、基本的に今ないっていうのは枝が多くて、まあ多分径が細い台が多いです」と説明するように、良質な広葉樹の減少という課題を抱えています。しかし、その中でもタモやセン、ヒノキ、ケヤキといった日本材も、その特性を理解した上で活用されています。

山口剛

Point of View

自然素材は「流行」ではなく「原点回帰」だと改めて実感しました。素材を活かす美意識と、設計士・職人の協働によって、日本の内装文化はさらに深まると信じています。

設計段階で指名される事の重要性

自然素材への回帰:設計士が選ぶオークとウォールナット、そして施工の妙技

サンフットのような高級商材は、その品質の高さゆえに、施工には特別な技術と配慮が求められます。相互建装の木本氏は、サンフットシートの施工について「まず臭気作業をやるってことですよね。うん、臭気作業、匂い、匂いですね。そこはまず注意していただきたい」と、独特の匂いへの配慮を挙げます。また、「三次元の施工はちょっと厳しいですね」と、複雑な形状への対応の難しさも指摘しています。

天然木であるため、木材の種類によって硬さや割れやすさが異なり、「結局ね、木の種類によって割れてくるよねとか、これ硬いからこのデズレきついよねとか」と木本氏が語るように、個々の木材の特性を見極める必要があります。さらに、木目の連続性をどのように表現するかという「柄の出し方」も重要な要素です。「どの順序に貼ってったほうが見切り倍がいいかとか」といった、美観を追求するための細かな調整が求められるのです。

小林氏と木本氏の会話からも、天然木の扱いには職人の経験とセンスが不可欠であることがわかります。木目をいかに美しく見せるか、あるいは節といった天然木ならではの特性をデザインとして活かすかなど、施工現場での判断が最終的な仕上がりに大きく影響します。特に「ブックマッチ」や「ランダムマッチ」といった貼り方は、その空間の印象を決定づける重要な選択となります。

高級内装材の導入は、単なる材料費のアップではなく、それを扱う職人の技術力やデザイン提案力といった付加価値を最大化する機会と言えるでしょう。

山口剛

Point of View

天然木は一本ごとに個性があり、その違いを見極めるのが職人の技。手間を惜しまぬ仕事が、空間に“生きた素材感”を宿すのだと、改めて現場で痛感しました。

内装材は今後どの方向に向かうのだろうか?

逆境を乗り越える:サンフットが拓く内装業界の未来

低単価競争、職人の高齢化、そして深刻な人材不足。これらは内装業界が直面する喫緊の課題です。しかし、こうした逆境を乗り越え、持続可能なビジネスへと転換する道筋として、高級商材「サンフット」の導入が新たな可能性を提示します。サンフットは単なる高価な材料ではありません。それは、貴社の事業を再構築し、未来へ投資するための重要な一手となり得ます。

サンフットがもたらす高単価と高付加価値

従来の低単価競争から抜け出すためには、他社との差別化が不可欠です。サンフットのような高級商材を扱うことは、貴社のブランド価値を向上させ、高所得層の顧客獲得に繋がります。これにより、単価アップと利益率の改善が期待できます。

北三の小林氏は、同社の突き板製品が豪華寝台列車の内装に採用された事例に触れ、「元々はそこがスタートだったんですね。そうしたら段々、じゃあ、うちもやりたいっていう風に手を上げる企業が増えて」と語っています。これは、サンフットが単なる建材ではなく、プロジェクト全体の価値を高める商材として認められている証拠です。高級プロジェクトへの参画は、貴社の実績と信頼性を高め、さらなる高単価案件へと繋がる好循環を生み出します。

北三の一貫生産体制が支える品質と信頼性

高級商材の取り扱いには、品質への確固たる信頼が不可欠です。北三は、日本国内で唯一、突き板の製造から二次加工までを一貫して行う体制を確立しています。小林氏が「両方やってる会社っていうのは日本で弊社だけです」と胸を張るこの体制こそが、サンフットの安定した高品質を保証する根拠となっています。

また、インタビューでは、過去に他社の中国製シートで「めちゃくちゃ臭くて」といった問題があったことが語られており、品質の重要性が改めて浮き彫りになりました。北三は、自社の製品について「本物を使っております」と明言し、ウレタンクリア塗装による不燃認定の取得など、機能性においても高い基準をクリアしています。

施工上の疑問や課題に対しても、北三はサポートを提供します。小林氏は、設計士からの「この木だったらどれぐらい集まるの?とか」といった質問に対し、供給量や色合い、柄の指定など、きめ細やかな提案をしていることを示しています。こうしたメーカーの手厚いサポートは、高級商材を初めて扱う業者にとって大きな安心材料となるでしょう。

未来への投資としての高級商材導入

内装業界の高齢化と人材不足は深刻ですが、高級商材の導入は、この問題に対する一つの解決策となり得ます。高単価の仕事は、職人一人ひとりの生産性を高め、より高い報酬を可能にします。これは、若手の人材確保や、熟練の職人が持つ 技術継承 を促すインセンティブとなるでしょう。

サンフットのような天然木を扱うことは、職人にとっての「面白さ」にも繋がります。木本氏が「僕らはサンフットってやる方が面白いですね。やっぱり天然物触ってる方が僕は面白いです」と語るように、一つとして同じものがない天然木の特性と向き合うことは、職人の技術と感性を刺激し、仕事へのモチベーションを高めます。

単価アップに成功すれば、企業は従業員の育成や労働環境の改善により多くの投資が可能となり、結果として持続可能なビジネスモデルを構築できます。サンフットの導入は、単に高価な材料を使うということ以上の、貴社の未来を切り拓く戦略的な一歩となるはずです。

山口剛

Point of View

課題は多いが、悲観する必要はありません。高品質商材を扱う挑戦は、職人の技術を再評価し、業界の地位を押し上げる絶好の機会だと考えています。若手が「この仕事を続けたい」と思える環境を整えるには、誇りを持てる商材と現場が必要です。高級内装材の導入は、次世代への橋渡しだと確信しています。

編集後記

今回の北三さん視察は、まさに「本物」との対話でした。「中国の突き板シートを触ったんですけど、めちゃくちゃ臭くて…なんかそういう粗悪品なものっていうのはイメージがあったんですけど」とあったように、品質への先入観を良い意味で裏切られた方も多いのではないでしょうか。
低単価の波に揉まれる私たち内装業界にとって、北三さんのサンフットは、ただの高価格帯商材ではありません。それは、職人の技が光る「面白い」仕事を生み出し、ひいては業界全体の価値を底上げする可能性を秘めていると感じました。この出会いが、皆さんの新たな挑戦のきっかけとなれば幸いです。

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山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

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ヤモリサミット2025出展レポート|DIYと内装業の未来を考えるNPOの取り組み

DIYについてのセミナーを聴講する参加者

ヤモリサミット2025出展レポート:DIYで広がる内装業とNPOの可能性

先日、参加した「ヤモリサミット」は、単なる業界イベントではなく、不動産とDIYの領域で起きている変革の最前線を体感する機会となりました。
「不動産の民主化」をミッションに掲げるヤモリが主催するこのサミットは、これまで一部の専門家に独占されてきた不動産事業の領域を、より多くの人が主体的に関わることができる世界への転換を象徴するものです。当NPOが「DIYを通じた暮らしの自立支援」をテーマに活動していることと、その問題意識は根底でつながっています。
各メーカーや施工会社の先進的な事例を目にする中で、改めて認識したのは、これからの内装業にとって重要なテーマとなる「プロにしかできない領域」と「DIYでもできる領域」の線引きの問題です。業界全体がこの問いと向き合い、新しい価値の形態を模索している——その広がりと可能性を今回のサミットで感じることができました。

2022年ヤモリ訪問の際の記念撮影 藤沢社長と共に

ヤモリとNPOのつながり

ヤモリと私たちNPOが出会ったのは、今から数年前のことです。
NPOの活動方針として「近い探索と遠い探索」という取り組みを行っています。
近い探索 … 同業者や同じ地域の企業と情報交換しながら、現場の知見を共有する。
遠い探索 … 全く違うジャンルの業界に飛び込み、新しい視点やアイデアを吸収する。
この「遠い探索」の中で、理事のひとりが「面白い会社があるよ」と見つけてきたのがヤモリでした。そこで「ぜひお話を聞かせてください」と藤澤社長のもとを訪ねたところ、快く会談していただき、それが交流の始まりになったのです。
ヤモリの事業は「物件を安く購入し、必要な部分をリフォームして、利回りの良い運用を目指す」というもの。その中で「内装の力」「インテリアの価値」にしっかり目を向けていただいていることに、私たちも強く共感しました。
そうしたご縁から、今回で3回目となる「ヤモリサミット」に、私たちNPOも3年連続で出展させていただくことになったのです。

ヤモリサミット2023の様子、2025年は浅草橋で開催された

ヤモリサミットとは?

今回で3回目を迎える「ヤモリサミット」。
来場者とオンライン参加者を合わせて、なんと 約1,300人 が集う一大イベントとなりました。
会場には、すでに活躍している投資家の方々から、これから不動産投資を始めたいと考えている方まで、幅広い層が集結。セミナー形式で行われる登壇では、「きこり先生」や「パンツェッタ・ジローラモさん」をはじめとする多彩なパネラーが、不動産投資のノウハウや実践的な知見を熱く語っていました。
2フロアに分かれた会場は終日活気にあふれ、オンライン参加者も含めて大きな盛り上がりを見せていました。
そんな中で、私たちのブースでは「内装」「リフォーム」「DIY」といった、暮らしに直結するテーマについて、具体的な方法を来場者にお伝えする場となりました。投資の話と実際のリフォームの話が同時に展開されるのも、ヤモリサミットならではの魅力です。

イージーウォールテープに興味を示す参加者たち

ブース紹介①:Easy Wall Tape(壁紙屋本舗)

まず会場の入り口で出迎えてくれるのが、壁紙屋本舗さんの「Easy Wall Tape」。
名前のとおり、壁紙を中心にネットショップを展開している企業ですが、新しい提案として「大きなマスキングテープ」のような製品をリフォームに活用できるようにしたのがこのEasy Wall Tapeです。
あらかじめ糊が付いているため、壁はもちろん、金属・木製家具・扉など、さまざまな部分に貼れるのが特徴。通常の壁紙は幅92cmサイズですが、このテープは小さめ23cm幅なので、補修やアクセント使いにぴったりです。
何より嬉しいのは、その手軽さ。特別な道具もいらず、女性やDIY初心者でも気軽に扱えるので、「ちょっと直したい」「気分を変えたい」といったニーズにマッチしています。DIYでできる範囲を広げる、非常に可能性のあるアイテムですね。

ペイントのブース 古くなった建具もDIYで綺麗になる

ブース紹介②:日本ペイント(株式会社ささき秋田支店)

2つ目のブースは、日本ペイント。こちらはNPO理事でもある佐々木氏が担当されていました。
築古物件ではどうしても「建具」がそのまま残されてしまい、どこか垢抜けない印象になりがちです。しかし、そこにペンキによるカラーリングの妙を取り入れることで、ぐっと洗練された空間へと生まれ変わります。
当日は実際のサンプル品やカラーチャート、資料などを用意し、多くの来場者が手に取っていました。特に「DIYでもここまでできるのか!」と感じさせる提案は、参加者にとって大きな気づきになったと思います。
ペンキを使ったリフォームは、コストを抑えながらも物件の印象を大きく変えられる強力な手段。ぜひ多くの方に挑戦していただきたいアイデアです。

farrow&ballの世界観を伝える植木氏

ブース紹介③:Farrow & Ball(株式会社ミライズ & Kobuchizawa Colour)

3つ目のブースは、イギリス発の高級ペイント Farrow & Ball(ファロー&ボール)。
今回は、株式会社ミライズとKobuchizawa Colourの植木さんをゲストに迎えての出展となりました。
ファロー&ボールの特徴は、独自のカラー体系にあります。全132色のペイントはすでに組み合わせが決められており、「アンダートーン」という概念によって全体の調和が取れる仕組みになっています。そのため、キーとなる色を一つ選ぶだけで、統一感を失わない空間づくりが可能になるのです。
さらに植木さんは、イギリスの直営店で長年勤務されていた経験を持ち、本場ならではの視点で来場者とカラーリングの楽しさについて語り合っていました。ブースは終始和やかで、色の持つ力を実感できる空間になっていたのが印象的です。

セニデコのブース 漆喰とペイントもDIYで。本社のテリー社長も来日

ブース紹介④:セニデコ(有限会社テンコー装飾 & 株式会社川幸)

最後にご紹介するのは、セニデコ。南仏(マルセイユ)に本社を置く、フランス漆喰のメーカーです。
フランスでは漆喰をDIYで扱う文化が根付いており、今回のブースでは漆喰をはじめ、DIY向けの各種ツールやペイント商品が展示されていました。漆喰というと専門的で難しそうなイメージがありますが、実際には「自分で触れてみる」ことができる素材でもあるのだと感じました。
さらに今回は本国からテリー社長が来日。来場者の中にフランス語が堪能な方がいらして、会場での会話が盛り上がる一幕もあり、国際的な雰囲気を感じられるブースになっていました。

小池理事の講演の様子

セミナー紹介①:壁紙修繕におけるDIY範囲の見極め(株式会社アトリエ・サンクレーヴ)

セミナーは4部構成で行われ、各回60名(+立ち見)で延べ240人以上に来場頂いた盛況ぶり。ここでは概要のみをご紹介します。
最初に登壇されたのは、株式会社アトリエ・サンクレーヴ代表の小池氏。テーマは 「壁紙修繕におけるDIY範囲の見極め」 です。
内装業界でもよく話題になるのが「どこまでをDIYでやるべきか、どこからを業者に任せるべきか」という線引き。これを誤ってしまうと、余計な費用や手間がかかり、結果的に初期コストの回収が遅れてしまうこともあります。
その意味で、小池氏の講演は、投資家・DIY愛好家の双方にとって非常に有意義な内容でした。

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相互建装木本氏の講演 水回りDIYに興味をもつ参加者

セミナー紹介②:気軽にできる水回り&窓DIY相談室(有限会社相互建装)

2つ目のセミナーは、有限会社相互建装の木本氏による 「気軽にできる水回り&窓DIY相談室」。
窓回りやサッシ、水回りといった部分はどうしても劣化が目立ちやすく、物件価値を左右するポイントでもあります。しかし一方で、DIYでのケアは難しそうに感じられる箇所でもあります。
相互建装さんは「ダイノックシート」をはじめとするシート施工のスペシャリスト。キッチンの戸棚やサッシまわりなど、従来なら交換しか方法がないと思われていた部分も、シートの施工によって手軽に美しく仕上げることが可能です。
当日の会場では「水回りのDIYってどうすればきれいにできるの?」「下地の作り方のコツは?」といった質問が相次ぎ、参加者の関心の高さを物語っていました。

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内本氏と田村氏の講演の様子

セミナー紹介③:古さを味に変える、築古物件の修繕のコツ(アトリエ・サンクレーヴ × トリプルインサイド)

3つ目のセミナーは、アトリエ・サンクレーヴの田村氏と、トリプルインサイドの内本氏によるトークセッション。テーマは 「古さを味に変える、築古物件の修繕のコツ」 でした。
投資物件の改修を考えるとき、「新築同然にリフォームしたい」と考える方も多いと思います。しかし現実には、コストをかけて新築のようにしても必ずしも投資回収ができるわけではありません。
そこで提案されたのが「古さを味わいに変える」リフォームの発想。既存の素材や雰囲気を活かしながら修繕を行うことで、コストを抑えつつ魅力ある空間を作る方法が紹介されました。
このテーマは特に関心が高かったようで、会場は満席どころか立ち見も多数。急遽ヤモリのスタッフさんにお願いして椅子を追加するほどの盛況ぶりで、大きな注目を集めたセミナーでした。

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何事も勇気をもって行動を起こす事と力説

セミナー紹介④:DIYで逆転発想の高利回り不動産投資!(ワタベインフィル株式会社)

最後のセミナーを飾ったのは、ワタベインフィル株式会社 渡部氏による 「DIYで逆転発想の高利回り不動産投資!」。
小規模投資を始める際、多くの人が「失敗したらどうしよう」と躊躇してしまいます。そんな中、渡部氏は「不動産はわらしべ長者だ」と表現し、古くて価値が低いように見える物件こそ勇気を持って購入すべきだと語りました。
もちろんリスクはゼロではありません。しかし「値崩れすることはあっても、大きく損をするケースは稀。むしろ挑戦することで次のステップにつながる」と力強いメッセージを発信。
さらに、購入した物件を自社でリフォームして高く貸し出す手法や、住宅だけでなく店舗用物件に 用途変更 して新しい収益モデルを作るという発想も提示されました。
多くの参加者にとって「不動産投資の選択肢は住宅だけではない」という気づきを与えた、印象的なセミナーとなりました。

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ヤモリサミット2025 gallery














































編集後記

今回のヤモリサミットは、不動産投資の最新動向からDIYの実践的な知恵まで、幅広い学びを得られる場となりました。私たちNPOにとっても、内装業界の視点からDIYをどう社会に広げていけるかを考える、貴重な機会となったと感じています。
これからの時代、住まいを守る力は「プロの技術」だけでなく、「生活者自身の手」にも広がっていくべきだと考えています。DIYの裾野が広がれば、不動産価値の維持だけでなく、地域の空き家問題(空き家活用)の解決や暮らしの自立にもつながっていくはずです。
NPOとして、私たちは今後も「プロの知識を惜しみなく伝え、DIYの可能性を社会に広げる」活動を続けていきます。同業者の皆さまとも手を取り合いながら、新しい暮らしの形を一緒に作っていけたらと願っています。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




​DIYで逆転発想の高利回り不動産投資! ヤモリサミット2025

渡部理事の講演の様子

渡部氏講演レポート|築古物件DIYと投資の高利回り戦略

不動産投資と聞くと、多額の資金や専門知識が必要だと構えてしまいがちです。けれども実際には、小さな工夫やDIYの積み重ねが思いがけない成果へとつながることがあります。築古物件の修繕や空間の再生に取り組む中で、手間を惜しまない姿勢や柔軟な発想が新しい価値を生み出す――そんな逆転の発想が投資の可能性を大きく広げていきます。

イージーウォールテープを手に取る参加者

DIYから始まる不動産投資との出会い

渡部氏とは共にNPO理事として長く活動を共にしてきました。今回は久しぶりに北海道から参加し、会場に立って語る姿に胸が熱くなりました。長年現場の職人や施工会社と関わりを持ちながら管理者の立場から見てきた経験が、彼の言葉に独特の重みを与えていました。
渡部氏はまず、自身が不動産投資に関心を持つに至った経緯を振り返りました。2002年、札幌で初めて物件を購入したときのことです。900万円の中古住宅を取得し、通常なら500万円以上かかる改修費を350万円に抑えました。結果として物件は1,680万円で売却でき、大きな成功体験につながりました。
「最初の一歩を踏み出すときは、不安がなかったわけではありません。ただ、動いてから考えようと思ったのです」と渡部氏は語りました。施工は職人に委ねながらも、管理者として計画とコストをコントロールし、数字で成果を確認する。そこに投資としての可能性を見出したことが強調されました。
続いて彼は、DIYの位置づけについても触れました。初期の頃は予算の都合で自らも一部手を動かす場面があったとしつつ、基本は「施工はプロに任せる」という姿勢を貫いてきたと語ります。その理由は、仕上がりや安全性を担保すること、そして時間の効率性でした。DIYは物件の魅力を高めるための補助的な手段にすぎず、本質的にはプロの知見をどう活かすかが重要である――そうした整理が、参加者にとっても大きな学びとなったはずです。
「私は管理者の視点から、不動産と施工の橋渡しをしてきました。プロに頼む部分と自ら判断する部分、その線引きをどこに置くかで結果は大きく変わります」と渡部氏が述べたとき、会場から深い頷きが見られました。
私自身、NPOで理事を務める中で数多くの修繕や再生の事例を見てきました。その中で、渡部氏の判断は一貫して合理的であり、同時に未来を見据えたものであったと感じます。彼の歩みは、不動産投資が単なる資金運用ではなく、管理と連携の積み重ねで成り立つことを示していました。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「北海道から久しぶりに参加した渡部氏の話は、私にとっても改めて学びが多いものでした。施工を担うのはプロですが、管理者がどう判断し、どこに責任を置くかによって結果が変わる。その姿勢は、私たちがNPOで共有してきた理念そのものだと感じました」

何事も勇気をもって行動を起こす事と力説

築古再生と高利回りの挑戦

渡部氏が特に力を注いできたのは、築古物件の再生でした。北海道という寒冷地特有の条件に加え、築年数の経過した住宅やアパートが多く流通している地域性もあり、いかに低コストで再生し高い収益性を確保するかが大きな課題となっていました。そこで彼は、管理者としての視点から「いかにプロの力を効率的に活かすか」を徹底してきたのです。
具体的な事例として紹介されたのは、築40年を超える木造アパートの改修でした。外観は老朽化が進み、内部も水回りや壁紙が傷んでおり、一般的には解体や大規模な リノベーション が提案されるような物件でした。しかし渡部氏は「限られた投資で収益を最大化する」という視点から、フルリノベーションではなく部分的な再生を選択しました。
判断の基準となったのは、入居者のニーズと地域の相場です。例えば、すべての部屋を新築同然に仕上げる必要はなく、清潔感と安全性を確保したうえで、住み心地に直結するポイントに重点を置く。壁紙は劣化が激しい部分のみを貼り替え、床は必要に応じてクッションフロアを施工。水回りは最低限の更新にとどめ、全体の予算を抑えました。
“こうした判断が奏功し、物件は短期間で入居が決まり、想定以上の利回りを実現することができたのです。
渡部氏が強調していたのは「DIYを取り入れるかどうかは、収益性を高めるための一つの選択肢にすぎない」という点でした。築古物件の再生は往々にしてコストと労力が膨らみがちですが、管理者が冷静に線引きをし、プロの手を借りる部分を見極めることが投資成功の鍵となります。自身が手を動かす場面があったとしても、それは補助的な意味合いにとどめ、あくまで全体の計画を統括することが重要であると語られました。”
“さらに彼は、NPO活動を通じて培ったネットワークの価値にも触れました。信頼できる施工者や問屋とのつながりがあることで、築古物件の改修にかかるコストを抑えつつ品質を担保できたこと。その背景には、長年にわたり現場に関わるプロの知恵を尊重し、対等な立場で意見を交わしてきた経験があります。これは単なる投資家と施工者の関係ではなく、共同で価値を創り上げる姿勢にほかなりません。
築古物件はリスクがある一方で、発想を変えれば高利回りにつながる余地が大きい分野です。渡部氏の取り組みは、華やかな成功譚ではなく、管理者としての冷静な判断と、現場のプロとの協働によって積み重ねられた実践でした。その歩みは、参加者にとって「投資とは数字だけでなく人との信頼関係で成り立つ」という示唆を与えるものになったのです。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「渡部さんのお話を聞きながら、改めて感じたのは、築古物件の再生には単なる修繕の知識以上に、管理者としての判断力と協働の姿勢が不可欠だということです。DIYで手を動かす楽しさも大切ですが、最終的に価値を高めるのは、信頼できるプロとの関わり方や長期的な視野だと思います。NPOという場でこうして知見を共有できるのも、全国の仲間と築いてきた信頼があってこそ。学び合いの輪を、次の世代にもつなげたいと考えています。」

築古再生と管理者のまなざし

渡部氏が北海道から久々にNPO活動へ参加した背景には、地域で取り組んできた築古物件の管理経験がある。彼は施工者ではないが、長年にわたり数多くのプロと協働し、現場の課題と向き合ってきた管理者としての視点を持っている。
そのため、会場でも「築古物件をどう再生するか」という問いに対して、実践的かつ俯瞰的な言葉を重ねた。 渡部氏はまず「見えない部分こそが資産価値を決める」と強調した。壁紙や床材など表層を整えることは大切だが、それ以上に配管や下地といった目に見えない部分の健全性が長期の収益性を左右する。DIYで表層を整えることは投資家自身の喜びとなるが、基盤に関わる部分はプロの力を借りるべきであり、この線引きができるかどうかが成功の分岐点になると語った。
また、管理者の立場から特に重要視していたのが「信頼できるネットワーク」の存在である。渡部氏は、自身が北海道で築いてきた工務店や職人との関係を例に挙げ「施工者と管理者は対立する関係ではなく、協働によって初めて成果が出る」と述べた。修繕を依頼する際にも、ただ価格で選ぶのではなく、長期的な視野で付き合えるかを見極めることが大切だという。彼の言葉には、遠隔地から久々に参加した理事としての真摯な思いが滲んでいた。
さらに渡部氏は、築古物件を活かすことの社会的な意義についても触れた。新築需要が減少し、既存住宅の活用が叫ばれる中、築古物件の再生は単なる投資対象にとどまらず、地域資源 の活用や環境負荷の低減にもつながる。管理者としての選択は、個人の利益だけでなく地域の未来を左右するのだという視点で語られた。
参加者からの「どの程度DIYに任せ、どこからプロに依頼すべきか」という質問に対しても、渡部氏は「DIYは投資家に自信と愛着を与える一方で、リスクを抱える部分を見極めないと本末転倒になる」と応じた。
その落ち着いた語り口は、施工の現場を直接担わない管理者だからこそ持てる冷静なバランス感覚を示していた。 渡部氏の言葉は、築古物件をめぐる判断に迷う多くの参加者にとって指針となり、同じ管理者の立場で活動する山口氏にとっても深く共鳴するものだった。

NPO法人 住環境工事研究会 理事 山口剛

Point of View

「渡部さんが語られた“見えない部分こそ価値を決める”という言葉には強く共感しました。私自身、管理者として数多くの事例に関わる中で、表面の美しさだけでは資産価値は守れないと痛感しています。DIYの喜びを大切にしつつ、安心と収益を確保するためには、プロに託すべき部分を見極めることが欠かせません。NPOの仲間とこうして経験を共有できることが、次の世代に知恵をつなぐ大きな力になると改めて感じています。」

編集後記

今回のセッションは、施工の現場を直接担わない管理者だからこそ見えてくる「DIYとプロの境界線」が大きなテーマとなりました。渡部氏の経験に基づいた冷静な視点は、築古物件再生の本質を浮かび上がらせ、山口氏の共感の言葉と共に、参加者に確かな指針を示していました。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




築古物件リフォームの知恵|ヤモリサミット2025

内本氏と田村氏の講演の様子

古さを味に変える築古物件リフォーム|DIYとプロに学ぶ修繕のコツ

築古の住まいには、年月を重ねたからこそ漂う独特の趣があります。けれど同時に、老朽化や不具合とどう向き合うかが課題になります。大掛かりな工事だけが答えではなく、小さな工夫や手入れによって、その古さを「味わい」へと変えることも可能です。本稿では、プロたちの経験を交えながら、安心して暮らしを整えるための修繕の知恵を辿っていきます。

築古だからこそ発想の転換が必要

築古物件リフォームの第一歩|見えない部分を守る基礎の修繕

築古物件を前にしたとき、まず心に留めたいのは「見えない部分こそが命」ということです。外から眺めれば壁紙や床材の劣化に目を奪われがちですが、実際に建物の寿命を決めるのは下地や屋根、基礎といった内部の構造です。ここをないがしろにすれば、どれほど美しい意匠を施しても、やがて大きな修繕費を伴う事態に直面してしまいます。
内本氏はセッションの中でこう語りました。
「下地が大事です。仕上げてしまえば見えない部分は、今しか直せないんです」
その言葉には、現場で培われた実感がこもっていました。仕上げの陰に隠れる箇所こそ、最初の改修時にしっかりと手を入れるべき場所です。
特に留意すべきは「頭」と「足元」です。頭は屋根や天井、足元は基礎や土台にあたります。瓦屋根はしばしば敬遠されがちですが、現代の乾式工法を用いれば重量の問題も解消され、むしろ長寿命で維持管理しやすい素材です。台風後の点検は欠かせませんが、適切に扱えば優れた屋根材として力を発揮します。
一方、足元にはシロアリや腐朽のリスクが潜みます。阪神大震災で倒壊した住宅の多くが、実は基礎部分の劣化を要因としていました。普段は目に触れない箇所だからこそ、改修時には特に注意を払う必要があります。
内本氏は続けます。
「屋根の雨漏りは一滴でも放置してはいけません。修繕を怠れば、やがて全壊につながります」
会場にいた多くの参加者が深くうなずいていたのが印象的でした。
さらに外構においては、電柱の移設のように土地の使い勝手を左右する工夫もあります。制約だと諦めがちな事柄も、正しい申請を行えば改善できる場合があり、限られた土地を有効に活用する鍵となります。
築古物件の魅力を引き出す第一歩は、意匠を整えることではなく、建物を支える見えない部分をいかに健全に保つかという姿勢にあります。ここに投資を惜しまなければ、長期的な安心が得られるのです。

山口剛

Point of View

「築古物件に向き合うとき、どうしても見た目の古さに目がいきがちです。しかし実際には、屋根や基礎といった普段見えない部分にこそ、本当の価値が潜んでいます。内本氏の言葉にあった『下地が大事』という指摘は、私にとっても大きな学びでした。見えない部分を大切にする姿勢こそが、未来の安心を築く礎となるのだと改めて感じています」

古さと調和する内装リフォーム|水回り・設備の境界線と工夫

築古物件を再生するときに多くの人が悩むのは、「どこまでDIYで可能か、どこからプロに任せるべきか」という境界線です。壁紙の張替えや床材の変更などは手を動かせば比較的取り組みやすいですが、水回りや電気設備はリスクを伴うため注意が必要です。水漏れや火災といった重大な事故につながりかねず、専門の技術を持つ職人に依頼するのが安心です。
内本氏は次のように強調しました。
「水回りや電気設備はDIYで無理にやるべきではありません。特に分電盤は寿命があり、古いままでは火災の危険性もあるんです」
この指摘は、表面的な修繕に気を取られがちな私たちにとって重要な警鐘といえます。
一方で、DIYでも工夫できる余地は多く存在します。例えば、壁紙を一面だけ張り替える「アクセントクロス」は初心者でも取り入れやすい方法です。田村氏は、古い漆喰壁の一部に深い緑色の壁紙を加えた事例を紹介し、「空間全体を張り替えなくても印象は大きく変わる」と話しました。小規模な工夫で古さを和らげ、新しさと調和させることが可能です。
また、設備の刷新を最小限に抑えつつ雰囲気を高める工夫も紹介されました。田村氏は「既存の窓枠の色を拾い、それに合わせたリメイクシートを使えば古さが目立ちにくくなる」と提案しました。新しい設備を入れるほどに古さが際立つケースも多く、むしろ古い要素に寄り添った工夫が効果を発揮するのです。
さらに、照明や洗面ボウルなどの小物選びも重要な要素です。古民家や築古物件では、現代的な設備を無理に入れるよりも、和の要素を取り入れたパーツを組み合わせることで全体の統一感が生まれます。Amazonなどで手頃に入手できる陶器の洗面ボウルを使った事例も披露され、参加者の関心を集めました。
このように、内装の修繕は「プロに頼むべき部分」と「DIYで楽しめる部分」を切り分けることが鍵です。安心を損なう部分は専門家に任せ、そのうえで調和を大切にした工夫を取り入れることが、築古物件を魅力ある空間へと変えていきます。

山口剛

Point of View

「築古物件の改修で迷いやすいのは、どこまで自分で取り組めるかという点です。内本氏の『水回りや電気は必ずプロに』という言葉には深い説得力がありました。その一方で田村氏の『古さに寄り添う工夫が大切』という提案も印象的でした。安全と調和、この二つの視点を意識することが、築古物件を安心かつ魅力的に再生する道筋になるのだと改めて実感しています」

築古物件を魅せるインテリア術|和の要素と現代デザインの融合

築古物件を再生するとき、最も楽しさを感じられるのはインテリアの工夫です。表面的な古さを隠すのではなく、空間の持つ歴史を活かしながら現代的な感性を融合させることで、唯一無二の魅力が生まれます。特に和室や襖、畳といった伝統的な要素は、少しの工夫で見違えるほど空間を引き立てます。
田村氏は軽井沢の別荘を改修した事例を紹介しました。
「腰下の壁だけ壁紙を貼り替えると、全体の印象が大きく変わります。全面をやらなくても部分的な工夫で十分に雰囲気を変えられるんです」
小規模なアプローチでも空間を刷新できることを示す好例でした。
また、襖紙や畳の表替えはコストを抑えつつ印象を変える代表的な方法です。襖に柄物を選んだり、畳表を新調するだけで古さは味わいに変わります。和のテイストを生かす発想は、日本の住文化に根ざす空間でこそ力を発揮します。
さらに注目したいのが「和と洋の融合」です。田村氏はこう語りました。
「和柄の壁紙や障子紙を洋室に取り入れるだけで、空間の印象はがらりと変わります。外国人の方にも人気が高く、民泊やレンタルスペースでは特に効果的です」
従来は洋風に寄せることがおしゃれだと考えられがちでしたが、近年は日本の要素を積極的に取り入れる「ジャパンディ」スタイルも注目されています。
また、色彩の統一も空間を美しく見せる大切なポイントです。壁や天井、木部を同系色でまとめることで線が減り、視覚的にすっきりとした印象になります。築古物件では部材の色がばらばらになりがちですが、塗装やクロスで色を整えるだけで統一感が生まれます。
DIYでも挑戦できる工夫として、マスキングテープと両面テープを活用した壁紙の貼り付けも紹介されました。短時間で雰囲気を変えることができ、借家やイベント会場でも応用可能です。こうした手法は費用を抑えつつ華やかさを演出するのに適しています。
築古物件は新築のような完璧さを目指すよりも、古さを「味」として取り込み、現代的な感性を添えることで輝きを放ちます。和の要素を活かす視点と、部分的なリフォームの柔軟さこそが、築古物件を魅せる最大の秘訣なのです。

山口剛

Point of View

「築古物件の魅力は、決して古さを隠すことではなく、その古さをどう生かすかにあります。田村氏の『和柄を取り入れることで空間が映える』という提案には深く共感しました。和と洋のバランスを調え、部分的な工夫を積み重ねることで、建物は新しい表情を見せてくれます。古さを味わいに変える発想こそが、私たちが未来へ残す住まいづくりの大切な鍵なのだと思います」

編集後記

築古物件の修繕は、単に古さを隠す作業ではなく、建物が持つ時間の重みを味わいに変える営みだと感じます。内本氏、田村氏の実例からは、安全性を守る知恵と調和を生み出す工夫が伝わりました。未来の暮らしを支えるのは、こうした確かな技術と柔軟な発想の積み重ねなのだと改めて思います。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。




​気軽にできる水回り&窓DIYリフォーム|ヤモリサミット2025

気軽にできる水回り&窓DIYリフォーム|プロが教える安全な境界線と実践のコツ

ヤモリサミットで開かれた「気軽にできる水回り&窓DIY相談室」。日々の暮らしの中で、ちょっと手を入れたいと思う場所は誰にでもあるものです。けれど、水回りや窓まわりとなると不安がつきまとうのも事実。今回は、現場を知る経験豊富なプロたちと参加者が共に学び合いながら、「自分でできること」と「プロに任せること」の線引きを探る時間となりました。

相互建装木本氏の講演 水回りDIYに興味をもつ参加者

水回りDIYの境界線

水回りは住宅の中で最も劣化が早く、生活の快適さに直結する場所です。キッチンや洗面台は日々の使用で小さな不具合が生じやすく、表面の色あせや取手の劣化が目立ってきます。こうした部分は、自らの手で改修することで費用を抑えつつ雰囲気を一新できる範囲です。しかし、配管や蛇口といった設備そのものは専門的な知識を必要とし、安易なDIYでは大きなトラブルにつながることもあります。そのため、「どこまで自分でできるのか」という線引きが重要になります。
セッションでは、木本亮 氏が実際の施工事例を紹介しました。青い扉を木目調フィルムに貼り替えただけで、空間全体の印象が温かみのあるものへと変わる。収納扉や取手のリメイクは、大掛かりな工具も不要で、下地を整えたうえでフィルムを貼るだけという手軽さです。参加者にとって、この変化は「自分でもできるかもしれない」と感じさせるものでした。
一方で、配管や水栓の交換はDIYの範囲を超えます。水漏れは目に見えない部分で進行し、修復費用が大きく膨らむ恐れがあります。木本氏は「外観を変える部分はDIYで十分。ただし、機能や構造に関わる部分は専門家に依頼すべき」と明確に線引きを示しました。この冷静な視点は、DIYに挑戦したい人にとって安全な指針となります。
参加者からは「フィルムが経年劣化でめくれた場合、修復は可能か」との質問も寄せられました。木本氏は「一度めくれてしまった部分を取り除き、新しいフィルムを重ねれば問題ない」と回答。工場で貼られた建材も紫外線や湿気で劣化しますが、下地処理を丁寧に行えば再生できるとのことでした。つまり、DIYの可能性は素材の状態を見極め、正しく準備を行うことによって広がるのです。
会場では施工前後の写真が映し出され、その変化に小さなどよめきが起きました。新品への交換に比べてコストを抑えつつ、既存の素材を活かす方法は、環境負荷の低減にもつながります。参加者の多くが真剣な眼差しで説明に耳を傾けていたのは、単なる見た目の改善にとどまらず、持続可能な住まい方を学ぶ機会として受け止めていたからでしょう。
このように、DIYは暮らしを整える手段として魅力的ですが、判断を誤れば余計な出費やリスクを招きかねません。重要なのは「自分の手で変えられる範囲」と「専門家に任せるべき領域」を冷静に見極めること。そのバランスを知ることこそが、安心して住まいを手入れしていく第一歩となります。
山口剛

Point of View

木本氏の施工例を拝見すると、扉や収納の表面を少し工夫するだけで、空間全体が驚くほど変わるのだと実感します。一方で、水回りは見えない部分ほどリスクが潜んでいますね。参加者の皆さまには、安心して続けられるDIYと、専門の方にお願いすべき部分をしっかりと見極めていただければと思います。本日のご説明は、その大切な指針になったのではないでしょうか。

イージーウォールテープなどキッチンや窓周りのDIYに最適

窓枠DIYの可能性と注意点

住まいの中で、窓枠は意外と目に留まる部分です。壁紙をきれいに貼り替えても、枠が古びたまま残っていると全体の印象が損なわれ、どこか整わない雰囲気が漂います。特に中古住宅では、長年の直射日光や結露によって窓枠が傷み、塗装の剥がれや木部の劣化が進んでいるケースが少なくありません。今回のセッションでは、そうした窓枠の補修をどのようにDIYで取り組めるのかが大きな関心事となりました。
木本氏は、粘着式のシートを用いた補修を紹介しました。あらかじめカットされた商品を選び、寸法を確認して上から貼るだけで、古びた窓枠が明るく新しい印象へと生まれ変わる。木目調や白、黒といった豊富なデザインの中から好みに合わせて選べば、部屋全体の統一感を損なうことなく手軽に雰囲気を変えられるとのことでした。会場に映し出された施工例でも、貼る前と後で部屋の印象が大きく変わり、参加者から感嘆の声が上がりました。
ただし、DIYが万能であるわけではありません。窓枠の下地が紫外線や湿気で大きく傷んでいる場合、表面にシートを貼っても十分に密着せず、短期間で剥がれる可能性があります。そのため、下地の状態を見極め、必要であれば剥がれた部分を削って平らにし、パテ処理を行うといった準備が欠かせません。木本氏は「表面の見栄えを整える範囲はDIYで対応できるが、下地の傷みが大きいときは専門家に相談するのが安心」と説明しました。
参加者からは「どこから貼り始めればきれいに仕上がるのか」という質問も寄せられました。これに対して木本氏は「上から下へ、そして窓の内側から外側へ」と答え、材料のまっすぐな端をサッシに合わせて施工することで、無理のない仕上がりになると助言しました。経験に裏付けられたシンプルな指針は、初めて挑戦する人にとって大きな安心材料となったはずです。
さらに議論は、紫外線が与える影響にも及びました。直射日光を受け続ける窓枠はどうしても劣化が早く進みますが、耐久性の高いプロ用フィルムを用いれば、条件にもよりますが3年から5年は十分に持ち、環境が良ければ10年ほど耐えることもあると説明されました。加えて、窓ガラス自体に紫外線カット機能を持つフィルムを施工すれば、枠の保護効果はさらに高まり、室内の快適性も向上するとのことでした。
窓枠DIYは一見小さな補修のように思えますが、その効果は想像以上に大きく、部屋の印象を左右する重要な要素となります。ただし、成功の鍵は「下地の状態を正しく見極めること」にあります。きれいに仕上げたいという気持ちだけで作業を進めるのではなく、素材の健康状態を確かめ、そのうえでDIYに向くかどうかを判断することが欠かせません。そうして選択を重ねていくことが、安心して暮らせる住まいをつくる第一歩になるのです。
山口剛

Point of View

窓枠は普段あまり意識されませんが、部屋の印象を大きく左右する大切な部分だと改めて感じました。フィルムを貼るだけで空間全体が明るくなる一方、下地が傷んでいる場合にはプロに依頼する必要があるというお話は、とても分かりやすい指針だったと思います。参加者の皆さんには、ご自宅の窓を見直すきっかけになれば嬉しいです。

時間いっぱいまでDIYの質問が飛び交う

実践と学びの広がり

セッションの後半では、参加者から生活に直結する質問が次々と寄せられました。キッチン扉の表面がささくれてしまったときの直し方や、洗面まわりのカビ対策、タイル壁の補修方法など、どれも「明日から役立てたい」と思える実践的な内容です。職人の方々は、それぞれの経験を踏まえて分かりやすく答え、会場全体に安心感が広がっていきました。
木本氏は劣化した木部の処理について、「表面をなめらかに削ってから、必要であればパテに木くずを混ぜて補強すると良い」と丁寧に説明しました。湿気を残したままでは割れの原因になるため、ヒートガンなどで十分に乾かしてから施工することが大切だと強調されます。専門的に聞こえる方法でも、手順を守れば家庭で取り組めるもので、参加者は熱心にメモを取っていました。
また、壁紙や家具のリメイクに役立つフィルムについても話題が広がりました。「扱いやすい製品を選ぶことが、成功の秘訣です」との言葉にうなずく声が上がります。特にイージーウォールテープのように貼り直しができる商品は、初めて挑戦する方にぴったりです。少し失敗してもやり直せるという安心感が、DIYへの一歩を後押ししてくれるのです。実際の施工例では、古い家具が短時間で新しい表情を見せ、会場から驚きの声があがりました。
話題は次第に水まわりへ移りました。洗面台や窓枠など、水に触れる場所を扱う際は「表面を覆うだけでなく、隙間をきちんとシーリングすることが長持ちのポイントです」と木本氏は語ります。湿気を残したままではカビを招いてしまうため、乾燥を徹底することが欠かせません。普段は見過ごしてしまう工程にこそ、大切な工夫が隠されているのです。
「木材を使った洗面台を自作したい」という参加者からの声には、「もちろん可能です。ただし防水のためにウレタンで仕上げ、木口はシーリングでしっかり処理してください」との助言が返されました。正しい手入れをすれば長く使えることが伝えられ、参加者の表情は期待に満ちていました。
このように、会場では知識だけでなく、暮らしにすぐ役立つ工夫が次々と紹介されました。DIYに挑戦することは、住まいをより快適にする方法であり、同時に日々の空間に愛着を深める行為でもあります。ただし、すべてを自分で行う必要はなく、専門家に任せることで安心を得られる場面もあります。その境界を見極める大切さを共有できたことが、このセッションの大きな収穫でした。
山口剛

Point of View

生活に直結する質問が多く寄せられたことは、とても意義深いと感じました。DIYは住まいへの愛着を深めるきっかけになりますが、同時に正しい手順や注意点を知ることが欠かせません。木本さんの具体的な助言は、まさにその橋渡しでした。すべてを自分で抱え込むのではなく、任せるべき部分はプロに依頼する。その線引きを学ぶことこそが、このセッションの大きな価値だったと思います。

編集後記

水回りや窓枠のDIYと聞くと、つい不安が先立つものです。けれど今回のセッションを通じて、「自分でできること」と「プロに任せるべきこと」の線引きが驚くほど明確になりました。扉や窓枠の表面を整えるだけで空間が生まれ変わる一方、配管や下地の傷みには専門的な判断が必要です。参加者の皆さんが熱心にメモを取る姿から、住まいへの愛着と学びへの意欲が伝わってきました。正しい知識と適切な判断があれば、DIYはもっと身近で安心なものになる。そう実感できた時間でした。

山口 剛 株式会社遠藤紙店

Author:山口剛

プロフィール

## 活動概要

山梨県出身。家業である壁紙卸売業を継承しながら、壁紙専門店「WALLPAPER STORE」のウェブ編集者として従事。幼少期より壁紙という素材に親しみ、成人後にその真の魅力を認識。「空間を一変させる壁紙の力」に感銘を受け、家業の発展とともにインテリア業界における新たな事業展開を開始した。

「WALLPAPER STORE」においては、壁紙の魅力をより広範囲の顧客層に訴求するため、ウェブサイトおよびSNSを通じた情報発信を担当。DIY愛好家のチームメンバー、ならびに施主の要望と生活様式に寄り添いながらインテリア空間を共創する「ウォールスタイリスト」と連携し、初心者にも取り組みやすいアイデアをブログおよび各種コンテンツを通じて提供している。

## 経歴

1983年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)卒業後、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。事業企画部門において、中期経営計画の策定、予算管理、プロジェクトマネジメント等に従事。関連会社の統合、事業譲渡、合弁会社設立等、多岐にわたる企業戦略業務に携わり、豊富な実務経験を蓄積した。

## 個人について

家族との時間を大切にし、週末は息子のサッカー活動に積極的に参加している。また、浦和レッズの熱心なサポーターとして、週末のテレビ観戦を楽しみとしている。